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「で、一體どういうことなの?」
「しーっ。いけない、ルリヲさんしゃがんでっ。探偵さんに見つかっちゃいますよ」
「そっかそっか」
彼女に言われるが儘に、僕は酒屋の前に積まれているダンボールの陰に腰を降ろした。
「いーですか。もう一回說明しますよ。私たちは犯人なんです。我々犯人をあさひさんが探偵となって探しだす、これはそういう遊びなんです」
「かくれんぼとどう違うの?」
「探偵さんには唯やみくもに探せなんていいません。本格的に推理してもらいます。ルリヲさん、私たちも折角犯人なんだから何か手がかり落としましょう。そして探偵さんを挑撥しましょう」
僕の鼻先からゆうかの大きな瞳が覗き込む。そんな風にされたらもう何も言えない。まして相手はミニスカガール。
「あぁあウンッ。わかった」
「大丈夫です、きっと。私、あさひさんに渡した鳥打帽の中に探偵手帖も入れときましたから。きっと探し出してくれますよ」
そう言って彼女は笑った。笑みの零れる口許も飛び切りステキだと思うけど、やっぱり僕が一番氣になるところは身を潛めるために曲げられたその足、中でも太腿と名付けられた部位だったあああああっ。ポケットが震えてるっ。何これこのバイヴレーション!あ……感じちゃう……わけないよバカッ。僕はポケットに手を入れて中を探った。手に硬いものが觸れる。おかしいなあ。オモチャは持って來てない筈なんだけどな。えいやっと取り出すとそれは携帶電話だった。畫面はあさひからの着信を傳えている。僕は電話マークのボタンを押した。
「もしもし、あさひ?」
と言うが早いか手の中から電話が消えた。視ると、ゆうかが僕の靑い電話を握っている。
「返してよー」
「やだっ。電話に出ちゃ」
「何でさ?」
「だって、折角ルリヲさんと二人きりになれたのに……」
「えっ」
何を言ってるんだ、この子。初めて耳にする日本語の組み合わせに僕の腦髓の回路が戶惑ってどう處理していいのか解んないとか言って、『二人きり』とか『折角』だとかそれは通常僕側の言葉じゃないのかい?
「あ、ごめんなさい。今のは忘れて下さい」
ゆうかが背を向ける。
「えっ、あっ、ちょっと、待ってゆうかちゃん」
「嬉しいのは私だけですよね。ゴメンナサイ。ルリヲさんはあさひさんの事が好きだから、ほんとは私なんかよりあさひさんと一緖にいたいですよね。なんかすいません。こんな遊びに付合わせてしまって」
後姿の彼女が頭を垂れる。
「何言ってるの、キミは!僕があさひを好きだって?冗談じゃない。彼女は只の幼馴染みだよ。それに僕だってゆうかちゃんと一緖にいられて嬉しいんだから」
喋りながら僕は段々と自分の言葉に昂奮させられていってしまった。
「本當ですか?うれしいっ」
彼女はにっこりと笑った。僕だけに向けられているかわいこちゃんの取って置きの笑顏。こういう瞬閒のために生きているんじゃないのかも知れない。
「だから、ケータイの電源切ってもらっていいですか?」
「うん、いいよ」
僕は自分の許に歸ってきた電話をゆうかの言う通り、早速眠りにつかせてやった。
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