ハロウィンの夜

幾島溫

小説

2,779文字

彼氏はハロウィンの夜に女友達らとホテルを貸し切ってパーティーだそうです。10年近く前の話です。

わたしの彼氏は友達が多くてハロウィンの日も友達(女子2人を含む)と一緒にUSJのホテルの部屋を貸し切ってパーティーをするのだという。
だけど結局それはなくなって、男3人女2人の組み合わせで金沢へ一泊旅行へ行ってしまった。
今日はどうせ平日だから、わたしたちはもともと会う予定はなかったけれど、イベント好きのわたしとしては、本当はハロウィンを共にはしゃぎたかったし彼がハロウィンを共にはしゃぐのはがわたしじゃないことが悔しかったし、それに出来ることなら一緒においでと誘ってほしかったけど現実的には難しいし、けどやっぱりそれ以前に誘われないことでわたしの心には孤独がひしひしと刻み込まれる。

恐らくこれは比較の問題だ。
一人で家にいるのなんてもうずっと、前の結婚から合わせたらこの10年くらいはそんな感じだし、それがこんなにキツくなるのは世界中でもっとも親愛の情を持っている相手が私とは大違いで異性を含む4人グループで遊びに出かけているという事実と比較されてしまうからなのだろう。

きつい、くるしい、つらい。

せめて女がいなけりゃな、とわたしは思う。
男だけの付き合いとか、男の世界なら仕方ないか、楽しんで来てねって快く送り出せると思うけど何せ女がいる。一人いる。その女はメンバーの1人の恋人ということだけどそのポジションが非常に羨ましい。前世でどんな徳を積めば一体彼氏とその男友達といつも一緒に行動できるポジションを得られるのだろう。と、思うけど、そうではなくて私が彼の仲間たちと一緒に飲んだり食べたりする機会すら与えられないのはわたしの日頃の行いが悪すぎるからなのだろうか。
当初はわたしも一緒に仲良くしたいなどと思って一人でわくわくそわそわハラハラしていたのだけど、待てど暮らせどそんな日は一向に訪れないからいつしかわたしの中には彼らに対する嫉妬心ばかりが蓄積されていった。
こんな心持ちでいればそりゃ呼ばれなくて当たり前か。それにまあきっとわたしの需要はないのだ。
一度軽く顔を合わせた時に、その女というのがわたしのことをほとんど無視していたので、あーこの人わたしと仲良くする気ないわと思って心が死んでいったのだ。
そういうわけで愛しの彼はハロウィンの日におともだち4人組うち1人は女子と共にはしゃいでいるのである。
こんな時は毎朝毎晩としている長電話もお休みである。最短でも丸二日。
別に義務ではないけれど、習慣化してしまった時間はもう日常を構成する大切なものになってしまっていて、それなしで暮らすことは非常に苦しい。
彼氏は「お前も遊びにいけばいいじゃん」って言うけれど、わたしには子供がいるから彼みたくフットワーク軽く遊びにもいけないし、夜飲みに行ったり、友達を増やすためにガツガツ活動することも出来ない。
おかげでいつも電話が出来ないのは彼都合で、わたしが「今日は友達と遊んでるから」と云う事は無い。
それが悔しい。どうしようもなく格差を感じる。

時々は「今日は忙しいの」と嘘を言って電話を断って寂しがらせてやりたいけれど、そんなことをしたところで結局彼は誰か友達と飲みに行くのだろうし、そうでなくても誰か他の人と電話、それも女の子とする可能性もあるからまったくもってダメージを与えられる気がしない。
きっとただ、わたしの寂しさが募るだけなのだろう。無意味だ。
そんなわけで私はそういった類いの嘘をついたことがないのだが、それでも悔しいもんは悔しい。
悶々が堪る。
停滞している場合ではないのに。
私には仕事がある。
小説を描かなくてはならない。
私はいわゆる売れない新人えろ小説家で一年ぶりに巡ってきた出版のチャンスをしっかりものにしないといけないのだ。
それなのに。
このもやもやから脱却するには、わたしは自分も同じように友達を作るしかないと思った。
けれど小さな子供がいるわたしはオフ会に行くことも出来なければ、バーに飲みに行くことも出来ない。もともと少ない友達は、みんな日本中へちりぢりになり、家庭を持ち、子を産んで、遊びどころではない。
私はパソコンに向かうと、safariを立ち上げて検索窓に「人体錬成」と打ち込んだ。
最初に出てきたサイトは、百科事典。
次いでハガレン関係。
そんなわけでわたしは順に検索結果をクリック、クリックしょうして四ページ目にしてようやく人体錬成の具体的な方法が掛かれたサイトを見つけてしまう。

これさえあればもうわたしは、いらいらやもやもや、寂しさとサヨナラ出来るんだ。
わたしだって彼みたいに楽しくやりたい。
ちきしょ〜〜〜。
本当は彼と共に楽しくやりたいけれど、共に出来ないのならせめて感情の質を同等にしておきたい。

そうしてわたしは子供が幼稚園に行っている間に、サイトに書かれた手順に従って早速人体錬成を試みる。
人数は最低でも3人は欲しい。でも出来れば4人。件のグループは本来は5人なのだ。
わたしも男女混合グループで楽しくはしゃぎたい!!!!!!!
あほ!!!!

 

==材料==
水:35リットル 炭素:20kg アンモニア:4L
石灰:1.5kg リン:800g 塩:250g
硝石:100g 硫黄:80g フッ素:7.5g
鉄:5g ケイ素:3g その他:少量の15の元素
=======

その他の15の少量の元素というのがよくわからなかったので、こちらはクレイジーソルトをぶちこんでおいた。
それ以外に、人格を構成する情報として、ピチカートファイヴの「ベリッシマ」のCDと、ナイロン100℃の「わが闇」のDVDとドグラマグラの文庫本とゴッドタンのマジ歌選手権のDVDを放り込む。
これを全部で4人分!
ちなみにこれらの材料はすべて、アマゾンで揃えました。

わたしは4つの錬成陣の上にそれぞれ材料を置く。
そうして4つの錬成陣の真ん中に赤い極太のローソクを置くと、火を灯して部屋のカーテンを閉めた。

「えろえろえっさいむ、えろえろえっさいむ。我は求め訴えたり。いでよ、おともだち!!!」

4つの陣を前にわたしは叫んだ。
すると陣の中心から竜巻のような風が巻き起こってローソクの火を揺らす。
揃えた材料が飛び散ると思ったけど、そうなるよりも早くに材料は自らぎゅっと固まってヒトの形を為していく。
これで友達が出来る。
わたしは彼らが立ち上がるのを見守った。
ローソクの火が消える。
ヒト形のものたちが闇に紛れて見えない。

風が止んで静かになると、わたしは電気を付けた。
だけどそこには何もなかった。誰もいなかった。
用意した材料はすべて跡形もなく消えていて、何もない。
錬成陣を描いていた場所はにぽっかり穴が開いていて、底なしの深さを思わせる暗闇が続いている。
虚無だと思った。
その中を覗いていると、吸い込まれそうになるのでわたしは慌てて穴から離れて、テレビをつけた。
わたしには彼のような人生はないのだ。

 

=おしまい=

2024年11月10日公開 (初出 2016/10/31 個人ブログ(現存せず))

© 2024 幾島溫

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