松の木の間に張られたロープにピンク色のワンピース、ボーイスカウトの制服上下に二組の白い靴下が並んで干してある。それらは時折海風に吹かれ、松の木の下に置かれたレコードプレーヤーから流れる音楽に合わせて踊っているように見えた。
「腰に手を添えるの。そうじゃなきゃ一緒に踊ってるように見えないでしょ」
ゆったりとしたショーツと、本来の意味を成していないほど小さなブラジャーを着た少女が少年に向かって言った。
「だって恥ずかしいじゃん。誰も見てないんだから適当でもいいだろ」
白いブリーフを穿いた少年が言った。
「あんた本当に子供ね。誰かに見られてるとかの問題じゃないの。ダンスっていうのは誰かに見られていることを意識して踊るものなのよ」
少年は少女の言う通りに腰に手を伸ばす。想像していたよりもずっと柔らかい少女の肌に少年は驚き手を放したが、もっと触れていたいという衝動にかられ、また少女の腰に手を添える。
「そう、それでいい。次は左右に体を動かすのよ」
「うん……」
レコードプレーヤーから流れる音楽が、穏やかな波の音と共鳴する。
「次は? 次はどうすればいい?」
「あなたはどうしたいの?」
少年は少女に向けた目線を外した。次にしたいことは分かっている。分かっているがそれを口にしていいものか、口にしたらどうなるのかを想像して、少年は少女の目を見ることが出来なかった。
「分からないや」
少年は下を向いたまま言った。その顔は緊張でこわばっている。少女は少年の肩に添えた手を引き寄せ、少年の耳元でそっと囁いた。
「私はキスがしたいな……」
少女は少年の肩に置いた手を離し、その手を少年の頬に添えると、少年の顔を自分に向けて目を閉じた。夕日に照らされた二人の顔が重なる。そして、すぐに少年は少女から離れた。
「おえっ」
少年は砂浜につばを吐いた。
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