「なあ御前、”みょうごにち”って、一体何だ?」
「御前様莫迦ね。”みょうごにち”じゃなくって、明後日って読むのよ」
「へえ、”あさって”か。ふぅん成程」
良人、縁に坐して新聞を読む。その新聞の一番大きな見出に「明後日より上越は豪雪か」と在り。妻君、少しばかり開いた衾越しに裁縫をする。良人の問に呆れたように見える訣は、深く大きな溜息のため。縁に居坐る良人、ふと顔を上げれば、眼前に雪で弛んだ松の枝、冬椿、霜柱。妻君裁縫を已めて縁に出れり。
「厭だわ、こんなに積っちゃって」亦しても溜息一つ。されど訣は違えり。良人、新聞を閉じて、
「己がやろう。どれ、箒はどこだったか──」
良人、立ち上がって廻廊を渡り庫より一本の箒を担いで出る。かくて庭に出、真っ白い息を吐いて雪を搔くのは酷く侘しいもの。良人、少々唸って、
「たった一本の箒でこれだけの雪を搔くのはちと酷だな──そうだ、おい、狛、狛」
途端に雪にも敗けをとらぬような一疋の白い狗躍り出る。狗、舌をも出さず。
「狛、好いか? 今からこの庭に在る雪を、全部吸い込んで了うんだ。いいな? 全部だぞ。それ、そうれ」
狗、構えて一囘、大きく息を吸えば、乍ちの内に庭の雪、颯爽と消え去れり。
「好いぞ狛。難有い難有い。よし、もう行って好いぞ」
狗、良人の云う通り、降る淡雪に雑じって何処かへ消えれり。残るは少々の、白磁の色の狗らしき毛の塊。
"九篇風変─初雪"へのコメント 0件