IX
わたしがこっそり撮った彼女の写真には、彼女以外の誰も写っていない。
特に意図していたわけではないけれど、結果としてそうなっていた。わたしが彼女だけに関心を向けている証拠、なのかな。だけど、人のいないところばかりで撮っているわけでもないから奇妙ではある。正確には全く映り込んでいないわけではない。ほかの誰が入っていてもひどいピンボケやブレで写真のシミのようにしか見えない。盗撮?という性格上、ピンボケや手ブレは当たり前で、被写体の彼女すらボケたりブレたりしているものも少なくないから、そうなっても当然なのだけれど。
あの子、殻に閉じこもっているわけじゃないんだけど、写真を眺めていると、彼女には誰も寄せ付けないオーラを本人も無自覚のうちに出しちゃってるんじゃないかと思ってしまう。彼女の周りには人がいない方が自然に見えるんだ。クラスでも彼女はひとりでいることが多い。たいていひとり。だけど閉じこもりじゃないし、他人を拒絶するような盾のように強いオーラじゃない。優しくて柔らかくて、それでいて他人との距離を少し大きくとってしまうような、ぬいぐるみの綿のような空気が彼女を取り巻いている。普通にしてると、意図せず距離を置いてしまうような。他人にもその距離がなんだか気持ちいいような。もちろん、みんなが彼女を避けているわけでもない。決して社交的ではないけれど、社交性がないわけでもない。グループで行動するときにはどこかしらに溶け込んで、当たり前のくだらない会話をしている。
彼女を包む綿のような空気をみんなは感じているんだろうか。
そう思っていろんな子たちに遠回しに聞いてみたことがあるけど、誰も気がついていないみたいだった。みんなの認識は、ちょっと地味だけど普通でしょ、というのが彼女への評価。何度か一緒に遊んだことがあるけど、フツーに楽しかったよ、という声もちらほら。
そうなんだ。
変わり者だとさえ思われていない。
あんたの方がよっぽど変わり者だよ。
え、そうなの?
あの子をこっそり盗み撮りしてるくらいなんだから、自分がごく平均的な女の子などとは思っていないけど……とりあえず、わたしがどれほどの変わり者かはさておき、わたしの知っているあの子と、みんなが口にする彼女が微妙にズレてた。狐につままれたような気分、というのはきっとこういうことなんだろうと思った。
わたしはあの子との間に漂っている無色透明の空気を写しているのかもしれない。わたしはきっと、読まなきゃいけない読めない空気を感じながらシャッターボタンを押してるんだ。そう考えれば、彼女を撮った出来損ないの写真にも豊かな景色が宿り始める……わたしの勝手な妄想でしかないんだけど。彼女を撮りながら、その写真を眺めながら自分自身のことを考えてしまうなんて、これもあの子のソフトオーラの所為に違いないよね。
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