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ファインダーを覗く

REFLECTION(第5話)

加藤那奈

腕をまっすぐ伸ばし、シャッターボタンを押す。
別の景色が画面に貼り付く。
薄っぺらい世界が、0と1で書き留められる。
待ち合わせ時間まで後2分くらい。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,548文字

VIII

 

彼はもともと絵描きなのだ。

彼は写真のような絵を描いていた。

写真のように描くのは難しいことじゃない、と、彼は言う。少しばかりの根気と仕事の丁寧さが必要だとは思うけど、それは練習すればなんとかなる程度の技術だよ。昔は写真のように描くことには前衛的な意味があったんだ。わざわざ写真のように描くんだ。カメラで撮影すればいいのにあえて写真を模すんだよ。おかしいだろ。だけどね、絵画だとか美術だとか多くの人が楽しむようになって、改めて写真のような絵画が評価されたんだ。すごい技術だ、ってね。写真みたい、というのは上手とか下手よりもわかりやすい。技術の高さは芸術的な価値の高さとは無関係だ。だから、写真みたいな絵そのものに芸術的価値は全くない。その気になれば誰でも描ける。伝統工芸の技術よりはるかに簡単だ。僕は、そんな絵しか描けなかったんだよ。

彼は自虐的に微笑みながら語る。

そんな絵、描きたい奴が描けばいい。

古今東西、いろいろな絵を真似てみた。具象も抽象も試したし、絵の具や画材もいろんなものを使ってみた。だけどね、よくわからないんだよ。自分がどんな絵を描きたいのか。自由に描けばいいと言われて、自由に描いたつもりでもどこかで見たような絵になってしまう。誰かの模倣をしているつもりはないけど、気づかないうちに模倣している。そんな感じだ。これはきっと僕ばかりじゃない。同じようなところに陥っている絵描きは多いけど、不思議と彼らはそれでいいと思っているんだ。誰かみたいな絵を描いてどんな価値があるのかな。僕には全くわからない。最終的に行き着いたのが写真のような絵だった。描いているという実感が持てた。でも、まるで面白くない。絵を描くことそのものは嫌いじゃないのだけど、その結果、つまらない絵ばかりできあがる。がっかりだよ。つまりは芸術的なセンスが乏しかったんだ。才能以前にセンスがなかった。

結局たどり着いた結論は、描いた結果としての作品など僕にとってはどうでもよく、描くことそのものに浸っていたかったんだってね。

肝心なのは仕組みじゃなくて結果だ、なんて言っておきながら、僕には結果を見つけられない。だからこそ、その重要さを知っている。ということにしておいてくれ。本当は何にもわかっちゃいないんだけどね。

彼は自分に描けない絵が描きたかったんだという。

矛盾に満ちている。どんなに見たことのない絵を描けたとしても、描けてしまったら描けない絵ではなくなる。だが、その矛盾がエネルギーの源になるのではないかな……あきらめたように語る彼ではあるけれど、その言葉に耳を傾けるのは心地いい。彼はあきらめることを後ろ向きだと思っていない。できないことはできないのだから、できることをすればいい。もしも矛盾を力にできるのなら、是非そうするべきだ、と。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年4月11日公開

作品集『REFLECTION』第5話 (全6話)

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