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ファインダーを覗く

REFLECTION(第5話)

加藤那奈

腕をまっすぐ伸ばし、シャッターボタンを押す。
別の景色が画面に貼り付く。
薄っぺらい世界が、0と1で書き留められる。
待ち合わせ時間まで後2分くらい。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,548文字

VI

 

他人のことなど気にしていないようだけど、実はそうでもない・・という、ちょっと面倒くさい感じが彼女の輪郭、みたいなものかな。無防備なようで、すごく硬い殻をかぶっている感じ。あるいは天然のようで、凄く計算してる。といってもしたたかというのとはちょっと違うかな。打算、みたいなものはないみたい。

たぶん、友達が少ないタイプの子だよね。だからといって、友達がいないとか、できないとか、そういうのでもないみたい。わたしみたいな物好きもいるしね。

殻は硬くても閉じこもっているようでもないみたい。コンクリートでできた頑丈な要塞を身に纏っているようだけど、ちゃんと窓や扉はあるし、必ずしも内側から鍵を閉めちゃってるわけでもない。分厚い鋼鉄製の扉でも、ちゃんとノックをして、こんにちは、って挨拶すれば、あっちも普通に対応してくれる。たいていの子は、扉を見つけるまでにどうでもよくなっちゃうんじゃないかな。そこまでしてあのこと友達になることないし、ね。彼女にほんのちょっとでも触れるためには、けっこう根気が必要なのかも。わたしは、そういうの、割と面白がっちゃうんだけど。

知り合って、絡みにくい子だとは思ったけど拒絶されているようでもなかった。来るものは拒まないけど特別歓迎もしない……そんな印象だった。言葉少なだから正直何考えてるんだかはわからないけど、そういう子は、たいていわたしが普通に過ごしていたら気づきもしない景色を見てるんだ。きっとそれはわたしに理解できないことなんだけど、理解できないことこそが、どこかピュアにときめくんだよね。

わたしの饒舌と彼女の寡黙の間をやっと行き来した、数えるほどの言葉を拾い集めると、わたしたちの普通と彼女の普通が少しずれてるようだとわかる。たとえばひとりぼっちで寂しいと感じることがあるでしょ。あの子はそれが、ホントのところ、どうやらわからないみたい。ひとりぼっちの寂しさを周りの人たちの様子から理解していて、これが寂しいなんだな、と、常識的な理解はしていても、それがどうしてネガティブな感情と結びつくのかがピンときてない。

私はひとりぼっちでも、結構楽しいと感じているんだよ――あの子が真顔で言う―― ぼっちがいいと思ってるわけでもないけどね。

少ない言葉の隙間に見せる、困ったような笑顔がけっこう可愛い。

ねえねえ、わたしにこんなに話しかけられてさ、鬱陶しくは思わないの?

え、うん。思うよ。

傷つくことをさらりと言う――でも、あなた傷つかないでしょ。ああ、うん――何でもかんでも煩わしいけど一番は私自身だからね。世の中で私が一番鬱陶しい。こんな話を誰かにすると後ろ向きに見られちゃうけど、私には前と後ろの違いが見つけられない。どう、きっとわからないでしょ……たぶん、私、何かが壊れてるんだよ。

ちょっと自虐的な台詞に緩む唇がとっても可愛い。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年4月11日公開

作品集『REFLECTION』第5話 (全6話)

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