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ファインダーを覗く

REFLECTION(第5話)

加藤那奈

腕をまっすぐ伸ばし、シャッターボタンを押す。
別の景色が画面に貼り付く。
薄っぺらい世界が、0と1で書き留められる。
待ち合わせ時間まで後2分くらい。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,548文字

III

 

わたしはこっそり彼女の姿を写真に納めている。

盗撮、といえば盗撮になる、のかな。あの子に許可はもらってない、からね。だけど、あの子も私が時々撮ってること、知ってると思う。レンズを向けたとき、思いっきり見られたこともたびたびある。こっそり、ではあるけど、私、コソコソしてはいないから。スマホをかざしてるわたしに、彼女は何も言わない。沈黙は肯定、でしょ。それに、盗撮、といってもあっち側にイッちゃったおじさんとかが欲望ダダ漏れで撮るようなエッチな写真じゃないし、その写真を誰かに売りつけようとか、何かしようと思ってるわけでもない。単に私の“興味”で撮っているだけ。そもそも彼女の写真、欲しいなんて言う奴なんて……たぶんいない、かな。人気のある子なら、端に写り込んでるだけのピンボケ写真でも欲しがる奴がいたりするんだけどね。そういった意味ではあの子の写真、商品的な価値なんて全くない。わたし視点ではけっこう可愛い子なんだけどな……異性ウケはよくない、みたい。同性からしてもなんだ、こいつって感じだし。いわゆる“残念”な子っていうのかな……見た目はともかく性格的に癖がある。性格が悪いわけじゃないよ。難がある、というのとも違うと思う。癖がある、というだけだから……何考えてるかよくわからないし。それが面白いところなんだけどね。もっともわたしだってその境地に至るまでには少しばかり時間がかかったかな。彼女を相手にしようと思ったら、暖かく見守る懐の深さとか、気持ちの余裕とか、異性同性かかわらずちょっとした覚悟が必要かも。

ときどきスマホに保存してある彼女の写真を眺めるんだ。

盗撮、だから、まともに正面から取ってるものはごく少ない。後姿が大半で、後は横顔や遠巻き。ピンボケやぶれているのも沢山ある。写真として出来のいいものなんてひとつもない。こっそり取ってるんだからそういうものだよね。誰が見てもただの失敗写真にしか見えないかな。あの子と一緒にいるときは、いつでも写真が取れるように準備はしてるんだけど、あからさまに構えてるわけじゃないし、シャッターチャンスがいつ来るかなんてわからないでしょ。特に何かしてるわけでもないから、どんな場面がチャンスなのかも想定できない。こんなに沢山あの子のこと取ってるのに未だ予想も想像もできないんだよ。同じ仕草をしているのに何も感じないこともあれば、あっ、今だっ、て思う時もある。そこにどんな違いがあるのか考えてみたんだけど答えはまだ見つかってない。とにかく、あっ、て思ったとき急いで画面をかざしてシャッターボタンを押すけど、それぞれのアクションにちょっとずつタイムラグがあるから、いつも思うようには撮れないんだ。でも、だからこそリアリティがある、っていうのかな。わたしの目では探し出せなかった彼女をそこに見つけることができる。きっと思い通りに撮れちゃったらつまらない、でしょ。

そんな出来損ない写真の連続に、わたしはドキドキワクワクしてしまう。

例えは悪いかもしれないけど、UМAのインチキめいたピンボケ写真に近いかもしれない。たぶんあの子は、私にとって未確認生物なんだ。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年4月11日公開

作品集『REFLECTION』第5話 (全6話)

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