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ファインダーを覗く

REFLECTION(第5話)

加藤那奈

腕をまっすぐ伸ばし、シャッターボタンを押す。
別の景色が画面に貼り付く。
薄っぺらい世界が、0と1で書き留められる。
待ち合わせ時間まで後2分くらい。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,548文字

XVIII

 

あの子は生真面目なところがあるから、待ち合わせ時間には遅れないだろう。わたしの予想では15分とか10分前には来てるだろう。そう思って私は30分前に待ち合わせ場所に選んだ駅に到着した。改札前で適当に待ち合わせ、という約束だけど、わたしは少し遠巻きに彼女の到着を伺っていた。

約束の時間の約10分前。ホームを降りて改札に向かう人混みにあの子の姿を発見した。もちろん、ここで1枚。

彼女が改札前の柱に寄りかかり、わたしが姿を現すのを待っている。わたしは見つからないように彼女の様子を観察する。白いブラウス。茶色のベストと同じ色のスカート。黒っぽいストッキングかソックス。そしてブーツ。

へえ、あんな格好するんだ。

ニットとかデニムのパンツやジャケットみたいなもっとラフな服装を想像していたからちょっと以外だった。失礼なことをあえて言うけど、思ってたよりセンスいい。制服なんかよりとっても似合ってる。いい意味で裏切られた気分だ。でも、それでこそのあの子だ。わたし的にはなかなかいい出だしだよ。

待ち合わせ時間まで、10分足らず。わたしの盗撮タイム。わたしは気づかれないように距離を保ちながら移動する。カメラをズームにしてその表情をのぞき込む。彼女は改札に意識を集中しているみたいだ。わたしがじきに現れると思ってるんだろうな。ちょっと申し訳ない気もする。

待ち合わせ時間に早く来る子にはふたつのタイプがあるように思うんだ。ひとつは、先に来たんだから後から来るあなたがわたしを探し出すのが筋でしょう、みたいにあとからやってくる相手にまるで注意を払わずスマホを覗き込んで動画とか見てる子。確かに筋は通ってるけど、結局は人任せなんだよね。もうひとつが先に来た上に、相手を先に見つけてやろうって待ち構えてる子。あの子もわたしもこっちのタイプみたいだ。ある意味攻撃的なんだけど、自分自身を例として考えるなら、ちょっとした心配性でもあるんだよね。相手がわたしに気がつかないんじゃないか、って。時間を過ぎても見つけられないと不安になるんだ。電話すればいいじゃん、ってみんなは言う。まあ、そうだよね。でも、それってなんだか負けた気分になるんだよね。何に負けたのかよくわからないけど。

待ち合わせ時間まで後2分くらい。

彼女がスマホを取り出したんだ。

今時の女の子なんだから、別におかしくないけど……誰かから電話でもかかってきたのかな。まっすぐ腕を伸ばして改札口にスマホを翳す。あ、写真撮るつもりだ。たぶん、わたしの写真。いつもの盗撮に対するお返し、かな? でも残念でした。わたしはそこから出てきません――待ち合わせ時間に合わせてわたしは彼女の背後に迫る。そして、肩をぽんぽんと叩く。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年4月11日公開

作品集『REFLECTION』第5話 (全6話)

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