メニュー

ファインダーを覗く

REFLECTION(第5話)

加藤那奈

腕をまっすぐ伸ばし、シャッターボタンを押す。
別の景色が画面に貼り付く。
薄っぺらい世界が、0と1で書き留められる。
待ち合わせ時間まで後2分くらい。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,548文字

XII

 

なんであの子を盗撮するようになったのか?

可愛かったから。

たぶん、普段の彼女は取り立てて可愛らしいタイプじゃない。思春期女子だから、月並みの可愛さはあると思うけど、せいぜい月並み。男子から見たら月並み以下、かも。男子の可愛いって、ちょっとあざとさを感じる可愛さなんじゃないかな。女の子が女の子に見る可愛さは、男子のそれとだいぶ違う。でもこの話は割と面倒なんで、今は止めておく。結局、可愛さなんて見るものの主観だからね。

でもね、普段はそうでもないなって子が、一瞬可愛い表情や仕草を見せると、そのコントラストで何倍か可愛いって錯覚するよね。そんな一瞬をたまたま見かけちゃったんだ、あの子に。

同じクラスになって、最初の席替えで席が前後になった。わたしが前で、彼女が後ろ。それまであんまり話したことはなかったけど、ご近所の挨拶代わりにわたしから話しかけた。地味目ではあるけど、普通の女の子だなっていうのがそのときの印象だったんだけど。おとなしいけど、話しかければそれなりに応えてくれる。会話もあまり途切れない。もっともしゃべってるのはわたしの方が圧倒的に多かったけど、ちゃんと聞いてちゃんと相槌を打つなり、言葉を挟むなり。聞き上手な感じなのかな。わたしもついついしゃべりすぎちゃうくらいの。
何が話題だったかは覚えてないけど、彼女が笑顔を見せた。どちらかと言えば表情の乏しい子でせいぜいお愛想程度の笑顔しか見せてなかったのに、一瞬、正真正銘の笑顔が見えた。こんな顔するんだって思った。無茶苦茶可愛いって思った。わたしが男子だったらその笑顔だけで告っちゃいそうだった。でも、ほんの一瞬で、瞬きしたら見逃しそうなほどの瞬間だったから、もしかしたら、それまでにもそんな表情をしてたことがあったのに見逃していたのかもしれない。

それこそUMAクラスの笑顔。

その笑顔の一瞬が忘れられない。

でも、その笑顔がいつ発動するかわからないじゃない。だから、こっそり彼女を撮り始めた。あの笑顔を写真に納められないかなって。でも、撮ってるうちに、最初の目的はどうでもよくなっちゃった。笑顔だけじゃなく、あの子、けっこう可愛い。面と向かってるときより、何気なくしてる時が一番いい感じ。ぼんやり窓の外を眺めてるときとか、考え事をしながら歩いてるとき、とか。ただし、どこがどう可愛いのか説明しろって言われると、ちょっと困るんだ。盗撮したピンボケ、ブレブレ写真に彼女の可愛さが滲み出てる、って言ってもわかんないでしょ。

それに、わたしが可愛いって感じてるってことだけで充分だし。他の人にはわからないっていうのもなんか面白いしね。それでいいんだ。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年4月11日公開

作品集『REFLECTION』第5話 (全6話)

読み終えたらレビューしてください

みんなの評価

0.0点(0件の評価)

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

  0
  0
  0
  0
  0
ログインするとレビュー感想をつけられるようになります。 ログインする

著者

この作者の他の作品

「ファインダーを覗く」をリストに追加

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 あなたのアンソロジーとして共有したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

"ファインダーを覗く"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る