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ファインダーを覗く

REFLECTION(第5話)

加藤那奈

腕をまっすぐ伸ばし、シャッターボタンを押す。
別の景色が画面に貼り付く。
薄っぺらい世界が、0と1で書き留められる。
待ち合わせ時間まで後2分くらい。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,548文字

XI

 

19世紀末、映画を初めて見た人たちはとても驚いたそうだね。真偽のほどは怪しいんだけど、スクリーンの中で向かって来る機関車から慌てて逃げた人たちがいるとか。現代の僕たちが向かってくる3D映像に思わず身体を避けてしまうのに似ているのかもしれないね。カメラオブスキュラから始まって、僕らは光を定着させることに成功し、さらに時間を与えた。技術の進歩だ。素晴らしい。

だけど、これは本当に進歩なんだろうか。僕らは前に進んでいるのだろうか?

もしかしたら、ただ立ち止まっているだけなんじゃないのか。

映像は進化して、仮想空間に現実には存在しない物を存在するかのように見せることもできる。技術は確かに進んだけれど、僕らの“見る”という感覚は何も変わっていない。ただ、人の感覚に対して技術をチューニングしているだけだ。技術は前に進んでいても、人はずっと同じ地点に立ち止まっている。

そういうものだ、と、言ってしまえばそれまでなんだがね。でも、なにかつまらないんだよ。僕は、見たことのないものを見たい。単に目新しさではなく、僕らの想像を超える物を見たいんだ。目にしてもすぐには理解できないものが見たい。僕には一生理解できないかも知れない。もしかしたら、すでに目の前にあるのだけど気づくこともできないかも知れない。でも、そういうものを目にしたい。僕はね、芸術にそんな可能性を感じていたんだよ。

少し注意しておかなければいけないね――理解できない、には、二通りある。

ひとつは人のイマジネーションを超えてしまって、これまでの知恵や感覚では捉えきれずに理解できないこと。これが僕の求めているものだ。きっとそんなものを見つけられるのは極々一部の人たちだけなんじゃないかな。そして、その中に僕はいない。

それに対して、ただ無秩序で錯乱していて筋が通っておらず他者の理解を拒絶しているかのようなもの。これはただの自己満足だ。これは筋が通っていないから整合性のある理解が不可能なだけで、突き詰めてゆけば僕らのイマジネーションを少しも超えてはいない。時にはとても低いレベルでの混乱を自由だとか個性だとか、どうでもいいような調味料で味付けをしてわざと口当たりの悪い料理にしているようなものもある。もっとも同じような思考や感性の持ち主がいないわけじゃないから、前者に比べて多くの支持者を短時間で獲得することもある。

前者は進化。後者は退化に等しい。

ただ、注意深く見ないとこれらは区別しにくい。

知識や経験がなければその違いがわからない。

最先端の芸術は、最先端の科学や哲学と同じなんだよ。基本的な知識や、その歴史を知らなければ絶対に理解できない。四則計算がどんなに早くできたって、数学を理解したことにはならないだろ。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年4月11日公開

作品集『REFLECTION』第5話 (全6話)

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