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片羽を落とす (2/6)

片羽を落とす(第2話)

加藤那奈

先週の朝ご飯と昼ご飯も美味しかったよ。自画自賛だね。
じゃあね、私。またね、私。
・・・
重ね重ねのありがとうだった。

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

14,471文字

04 一回、徹夜してみる

 

四回目をもって、隔週の記憶をもった私が七日間で交替するという仮説が補強された。五回目が起こり、ほぼ間違いないだろうと思われた。そして、それから、私と私は、七日ごと規則正しく交代した。

私も、もう一方の私も、互いにコミュニケーションを取ることで、少しは、いや、随分安心できることがわかった。

コミュニケーションの方法と、内容についての基準があっという間にできた。

四回目の交代以来スマホの端末内のメモリに日記のような形でメモを残していたのだけど、やっぱり不安でトーセーにも引き続き伝言係をお願いしていた。でも、いつまでも面倒かけるわけにはいけない。毎週カノジョからカノジョへの伝言なんて、最初は良くてもいずれ負担になるはずだ。だからまずこれを止めて自分だけでなんとかする。

別にいいのに、と、トーセーは言ってくれたけど、甘えすぎは良くないでしょ。

だったら、SNSとか使うのはどう? 端末のメモリだけだと故障したときなんか面倒だよ。SNSならパソコンで見られるし、なんなら僕も参加できる。

なるほど……半分採用。

半分?

トーセーは参加させない。

どうして?

これは、言ってみれば女の子同士ののプライベートなコミュニケーションだよ。

ああ、そう、だね……。

トーセーがちょっと残念そうな顔をした。彼が出歯亀でそんなことを言ったわけではないのはわかる。たぶん、私のことを本当に心配しているんだ。でも、ここは自分ひとり(?)でなんとかしなきゃいけない。適当な無料サービスを使い、誰からの干渉も受けないようにして完全に他者をシャットアウトしたひとりSNSを立ち上げた。事情を知らない人から見たら、たったひとりのグループコミュニケーションって、誰にも聞かせない独り言でしかないから、考えてみたらすごくヘンだ。

伝達する内容は、毎日の出来事。

それは最初からそうだったんだけど、数回のやり取りで必要なことが浮き彫りになり、内容もすぐに洗練された……その日にしたこと、誰かと話した内容、行った場所、見たもの。何を食べたか、どの服を着てたのか。大学の授業のこと、その他連絡事項等々。一日の終わりに覚えている程度の内容を箇条書きする。正確な記録じゃなくていい。多少曖昧な記憶であってかまわない。だから、いちいち何時何分何をした、なんていう細かい情報は必要ない。忘れてしまうようなこと、ふだんは気にも留めないようなことまで神経質に記録する必要は無い。原則、その日の出来事だけを綴ればいいけれど、もしも必要だと判断したら感想だとか、意見なども記す……このやり取りが赤の他人なら安定するまでにもっと時間が必要だったろう。だが、私たちは全く同じ人間だ。同じ体で、同じ感覚で、生まれてからの二十年間、全く同じ記憶を共有している。自分が何を選択するのか、どんな価値観でどう判断するのかはわかっている。だから、私は私が求めるだろう内容を想像すらしなくていい。試行錯誤などなく、階段を二段三段飛び越しながら上ってゆくような速さでコミュニケーションを確立していった。

テキストだけだったやり取りに写真が加わるのに時間はかからない。例えば、その日の服装や食事なんかは言葉で書くより画像の方が簡単で正確だ。それがより効果的だと私は判断するから、いちいち相談する必要は無い。私はもう一方の私が望むことを的確に伝える。もう一方の私も私に欲しいものをくれる。

そして二十歳の誕生日から十二週、それぞれの私が奇妙な記憶障害――記憶のスキップ、あるいはタイムスリップと呼んでもいい――を六回ずつ経験した十月の半ば、SNSを使った記録の交換が三巡する頃にはとても円滑な記憶の共有が行われていた。

二十歳の誕生日が起点、というのが僕はちょっと気になるんだよね。

トーセーがたびたび口にした。

気になるって?

いや、ただ、なんとなく気になるだけ。

確かに私にとっての区切りとなる日取りではある。

気になる、といわれれば、気になる。

でも、それに意味があるのかどうかなんて見当すらつかない。

ただ、この怪現象が夏休みに始まったのは都合が良かった。

九月になって、大学の講義が再開されたのは、私と私のひとりSNSを立ち上げたばかりの頃だったけれど、既に状況を把握したあとなので、大学の友達にもほとんどおかしな姿は見せていないと思う。もちろん講義の受講もちゃんとノートをとることでなんとでもなった。もし、これが学校が休みになる前に起こっていたら私は大混乱だったに違いない。キャンパスのあちこちでトンチンカンな行動をしていたかもしれない。状況の把握もきっといくらか遅れただろう。だから幸いではあったのだ。

あれからもいくつかの病院で診てもらった。カウンセラーにも相談した。ただ、記憶が一週間おきで別の自分と交代していることを説明するのが難しい。CTやMRIを何度撮っても異常はない。心療内科や精神科では、取り敢えず様子をみましょうと保留するばかり。何人かの医師には私も慎重に、誤解のないよう交代制の記憶について説明をしてみたが、誰もが解離性障害の一種、以上の診断は下せなかったし、むしろ、定期的に規則正しく記憶がなくなるなんて症例なんて聞いたことがないと、前に診断を受けたときと全く同じ回答を聞くだけだった。たぶんそれはあなたの思い込みみたいなもので、と、もっと違う精神障害を示唆する医師もいた。大学のカウンセラーの方がまだましだった。といっても、話しをちゃんと聞いてくれるだけだったけど。私の話をそのまま信じているのかどうかはわからない。それでも、取り敢えずは私の立場に立とうとしていたようだ。

結局、医者もカウンセラーもあてにならない、とういうのが私と私の見解だった。だが、原因を解明する他の手立てもない。全く期待はしないながらも、ときどき病院を訪ねていた。しかし、判を押したような話を聞かされるばかりで、原因もきっかけも、このおかしな症状についての推測はおろか憶測する材料さえも見つからなかった。

だけど、どうしようもない。

私と私はこの異常な生活に慣れていかざるをえなかったし、実際に慣れていった。人の適応能力侮り難し、だ。

ただ、ひとつだけ受け入れきれないことがあった。

自分自身の時間感覚と実際の季節の移ろいのスピードが違うのだ。

片側の私は隔週の記憶が連続している。つまり私の二週間は四週間にあたる。一ヶ月は二ヶ月だ、三ヶ月しか経っていないのに実際には半年過ぎる。一週間ずつスキップしているのだから、どんどん時間が過ぎてしまう。その間を互いの残したメモや写真で埋め合わせても、時間の感覚が変わるわけではない。もしも治ることなくこのまま続けば、五年が十年で、二十年が四十年で、と、恐ろしく早く歳をとってしまうのだ。肉体は実際の年月に見合った形で衰えるのだろう。でもスキップした記憶の私と私は、他の人たちの倍の速さで老いてゆくことを意識するのだ。想像すると恐ろしくもあり、もしこの状態が一生続くなら、みんなの半分しか生きている実感が持てないわけで、なんだかひどく寂しく、また、虚しくなった。

希望の持てない状況だけれど、結果的に救いとなっていたのは、毎日毎日、来週の私のために書くメモだ。あ、これ教えてあげなきゃ、あ、写真に撮っておいてあげよう……SNSに、その日の出来事を列挙するだけなのだけど、遠い所に引っ越してしまった親友に近況報告する感覚でメモを残した。受け取るときもそれと同じだ。先週の私は何をしたの、何を食べたの、どんな服を着て出掛けたの、何か面白いことあったかな、あ、トーセーとデートしたんだ。やっぱり親友の近況を受け取るような気持ちだった。

この肉体もこの意識も同じ私なのに、記憶だけ共有していない私。私の知らない私……当初は戸惑っていたこの奇妙な関係もいつの間にか受け入れていた。一週間毎の交換日記みたいなコミュニケーションではあるけれど、思った以上にスムースなやりとりに、やっぱり私は私なんだと安心することができた。日曜の朝、目覚めて一週間跳んでしまっていること確認すると、やっぱりやりきれない気持ちにはなったけれど、いかにも私らしい私からのメッセージを読んでほっとした。

私は私とのやり取りを楽しんでいた。

「リョーシー、なんだか恋人からの手紙を読んでるみたいな顔だよね」

トーセーがおどけた調子で口をへの字に曲げた。

「嫉妬?」

「うん」

何か言いたいことがありそうね。

そうだね……。

「リョーシーがうまくやっているのは悪くない。事情を知っている僕でさえ、もう本当は元通りになっているんじゃないかと思うときがある」

「ホントに元通りだったりして」

「いや、でもね、やっぱりそれは違うっていうのもわかる」

そうなの?

そうだよ。僕は君の恋人だからね。

照れてしまうようなことを、真顔で言うんだ、この男は。

例えば先週と同じ店に食事に行くだろ。リョーシーはそこがちゃんと前の週に来た店だってすぐに理解するし、自分が何を食べたのかも知っている。そのときね、必ず、ではないけれど、たいてい前の時と同じメニューを頼む。そんな様子を見てるとね、君ももう一方の君も、自分自身の知らない自分自身の経験をちやんと自分自身のものにしようとしてる……そんなふうに感じるんだ。

確かに、そうだ。私の知らない私が経験したことを私も同じように経験できればと思う。同じ場所に行ってみたいな。同じものを見てみたいな。同じものを食べてみたいな……決して強く望んでいるわけではないけれど、同じ経験ができたなら、ほんのちょっと嬉しいと思う。

「ダメ、かな」

「ダメじゃないよ。むしろ、そうやって記憶を共有しようと君なりに努力してるのかなって思うんだ」

努力なんてたいそうなものじゃない。ただ、私は私のことをもっと具体的に理解しておきたい。だから言葉や映像だけではなくって、体験そのものもできるだけ共有したい。同じことをわざわざ繰り返すつもりはないけれど、機会があるならそうしてもいいかなって。

いいんじゃないかな。

「僕としては、最近ちょっと複雑な気分なんだよ。リョーシーには申し訳ないんだけど、先週のリョーシーと今週のリョーシーが違っていること、つまり、半分の記憶しか持っていないことがはっきりわかると安心するんだ。元通りになって欲しいとは思うけど、まだ直ってもいないのに直ったように見えるのが不安なのかな」

何それ。

何だろうね。

「事情を知っている僕としては、今、目の前にいるリョーシーは先週の記憶がないんだって、ちょっと意識してるんだよ――意識しなきゃって思ってる」

そうなんだ。

その時の私はトーセーの気持ちをちゃんと理解していなかったと思う。どうして先週と今週の私が違うことをわざわざ意識するんだろう。私自身はそれを意識しないようにってしているのに。ただ、一番最初からこの奇妙な事件に巻き込んでしまい、無理矢理立ち会わされているのだから、彼には彼なりの思惑があるのだろう。実際、迷惑も心配もかけている。気遣いも感じてはいたけど、私が思っている以上に気をつかわせていたようだ。私は、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

これは、もっと後に気づいたことだけれど、私はトーセーにかなり負担をかけていた。すぐに気づかなかった自分が情けなかった。恋人失格だと思った。彼は、私ともう一方の私に対して、できる限り同じ回数会い、同じだけの時間を過ごそうとしていたのだ。前の週に私と二回会ったなら、次の週も二回会おうとしていた。前の週、ふたりの都合がつかなくて会えないときは、翌週も理由をつけて会わなかった。もし上手くできないときは、ひと月単位で数えたときに、なるべく同じになるよう調整していた。結果として、私に費やす時間はこんなことになる前よりもずっと長くなっていたのだ。私も以前よりも会う機会が少し増えているのはわかっていたけれど、それは私の記憶が一週間跳んでいるせいで間隔を短く感じているのだと思っていた。でも、そうではなかったのだ。私と私のメモや写真を遡って見返したならそんなことは明らかだったのに、私は私とのやりとりに夢中で、そんなあからさまな彼の気遣いさえ気がつかないでいた。

私は自分しか見えていなかった。

あっちの私もきっと同じだ。

そして、わかっていないのはそれだけじゃなかった。

 

私がトーセーの気配りに気づかず、私との記憶の共有に気持ちが奪われていた頃、イレギュラーが起こった。

土曜日と日曜日の間に起こるはずの交代が、一日前にズレてしまったのだ。

十一月のある日、土曜日に目覚めたらすでに一週間跳んでいた。

私は焦った。

私は自分の部屋で、ひとりで眠ったはずなのに、トーセーの部屋でトーセーの横で目覚めたのだ。ちょうど一番最初の時と同じような感じで。

テーブルには八月のように、ノートを引き千切って走り書きしたメモが置いてあった。

『もし、このメモを読むのが、これを書いた私じゃない方の私だったら、きっと焦っているでしょうね。私も焦ったわよ。土曜の夜に眠ったはずなのに、目覚めたら土曜の朝だもの。七日周期のはずなのに、六日で交代が起こっちゃった。

私がどれだけ慌てたかは、きっと想像できるでしょ。きっと今、これを読んでいる私が慌てているくらいに慌てたから。でも、一つの仮説に行き着いたので、これは実験です。もしこれを書いた私自身が読んでいれば、仮説は否定されます。こんなの書いた覚えのない私が読んでいたら仮説に矛盾はないの。

詳しいことを書くのは、面倒なのでトーセーをたたき起こして説明してもらって下さい。今回は説明役を押しつけるためだけに、泊めてもらったの。お礼、言っておいてね』

私がテーブルの前にぺたんと座り込んでノートの走り書きを読んでいたら、トーセーがもぞもぞ起きてきた。

「リョーシーはいつも早起きだよね」

布団にくるまりながらベッドに横たわったまま、私を見ていた。

「えっと、今回は特殊事例らしいので確認するよ。今、そのノートを読んでいるリョーシーは、そのノートを書いたリョーシーですか? イエス、オア、ノー」

「ノー。私じゃない。私の一番最近の記憶は、金曜の夜、自分の部屋で眠ったこと」

なるほど。了解。ということは、リョーシーの仮説が正しいかもね。

私の仮説?

うん、君の立てた仮説。でも、四日間考え続けてやっと導いたみたいだからね。えっと何が問題かは、今更いいよね。

えっと、一日ズレたこと。

そう。ああ、寝起きでいきなり話しはじめちゃったけど、大丈夫?

トーセーが大きな欠伸をした。

大丈夫だよ。で、私はどんな仮説を立てたの?

えっとね、交代のサイクルは日数ではなくて、眠った回数じゃないかって。七回眠って交代。君が前回書いたSNSのメモ、もう一度確認してごらん。リョーシー、前の週、かなりしっかり二度寝してる日があるでしょ。

え……あ、うん。

確かめるまでもなく覚えていた。

私の記憶では先週、実際には先々週の火曜日のこと。私は朝一度起きて、軽く朝食を摂ったら、また凄く眠くなった。午前の授業が休講になっていたので、お昼に出ればいいかとつい二度寝してしまった。滅多に二度寝などしない。まどろむ程度に横になっていることはあっても、熟睡することはない。でも、一連の出来事の渦中で自分自身気がつかないところで疲れていたんだと思う。次に目覚めたら、夕方になっていた。午後の授業はサボってしまった。一応これも体調不良、だよね……。そのことは、もう一方の私にメモを通じて申し送りしていた。

だからね、先週の君はいろいろ考えて、しっかり眠った回数がカウントされているんじゃないかって。うとうとしたとか、そういう浅いのはノーカウント。睡眠として深く眠った回数が七回で交代なんじゃないかって。どうも、今のところその仮説で説明はつくようだね。

えっと、ちょっと待ってね。

私はやっぱり寝起きの頭をすっきりさせるべき、と、十一月の冷たい水道水で顔を洗った。蛇口から流れ落ちる痺れるように冷えた水を両手に掬いバシャバシャ顔に当てながら、トーセーの説明を頭の中で整理した。

なるほど。

私は鏡の中の自分を見つめた。

なかなかいい洞察だと思ったんだけど、どう?

鏡の向こうの私が自慢げに微笑んだ。

でも、四日もかかったんでしょ。

四日で見抜いたのよ。

「すっきりした?」

「すっきりなんてしないけど、わかった。理解した」

「で、どうする?」

「どうする、って?」

「このままズレたままにしておく?」

ああ、そうね。

土曜夜と日曜の朝の間で入れ替わるのは――慣れてしまったせいもあるけれど――都合が良かった。学校もお休みだから、次の準備に余裕がある。一日前にずれてもきっとすぐに対応できるとは思った。でも、できればもとに戻したい。もし、先週の私の仮説が正しいのなら、私が一回眠らなければまたもとに戻ることになるはずだ。

「一回、徹夜してみるのもあり、かな」

私は独り言のように呟いた後トーセーを見ると、小さく頷いていた。

「いいと思うよ。今の時点ではただ説明できる、というだけで仮説が正しいとは言えないからね。リョーシーには辛いかもしれないけれど、一回完徹をして眠る回数を一回減らして、それでもとに戻ったら、七回睡眠説を補強できるね」

うん。

私が隔週の記憶しか持たなくなってからも何度か徹夜をしたことはある。でも、お昼から眠ったりして、一週間の間の眠る回数は同じだったのかもしれない。この際、ちゃんと(?)徹夜して、次の交代が起こるまでに眠った回数を数えておくのもいいだろう。

私はさっそくその夜、眠らないことにした。

でも、丸々一日眠らない徹夜なんてこれまでにしたことがない。ひとりで完徹はちょっと辛い。
――トーセー、申し訳ないんだけどさ……。

「了解。付き合うよ。君がちゃんと今晩徹夜して、明日の夜眠るまで付き合わせてもらうよ。僕も少なからず興味があるしね」

重ね重ねのありがとうだった。

「リョーシー、今夜は眠らせないからね」

トーセーがふざける。

バカ。

睡魔が猛烈に襲って来たのは翌日、日曜のお昼頃だった。私たちは眠らないため、とにかく外出した。私はトーセーにあちこち引っ張り回されて、電車に乗るときだって座らせてもらえず、ご飯を食べると眠くなるからまともな食事はせずに、私が眠そうな目をし始めるとウエットティッシュをぺたんと目に叩きつけられたりした。トーセーは少しくらい眠ってもよかったのだけど――その隙に君が眠ったらおじゃんでしょ~――と、自分の瞼にもぺたぺたウェットティッシュを貼り付けていた。

トーセーの努力(?)のおかげで、私はなんとか眠らず一日を過ごした。

結論を言えば、睡眠七回説は間違っていないようだった。

その後数えるほどでしかないけれど、ぐっすり眠り込んでしまった二度寝や徹夜してしまったときには、その週のうちに調節をして七回の睡眠で週末を迎えるようにしたところ、交代のタイミングがズレることはなく、私と私は規則正しく土曜と日曜の間の夜に交代をした。

暫定的だけど、私は睡眠七回説を肯定した。

ただし、どれくらい眠れば一回とカウントされるのか、はっきりとはわからない。七回説が正しいのなら、電車の中や授業中にふっと意識を失ってしまう程度の居眠りは数えられていない筈だ。眠りの深さがカウントされるのだろうか。単純に睡眠時間の累計ということだって可能性としてはある。交代までのカウントダウンの仕組みや条件についてちゃんと考える必要を感じたけれど、私と私が最も優先すべきは、異常のしくみを解明することではない。解明しなくていいとは思ってないけど、医者も当てにならないし、脳みその専門家でもない私の努力でなんとかなるものでもない。こんなおかしな病気(?)だ。治療にしろ原因解明にしろ、きっと時間も覚悟も必要だ。とりあえずそういうことを気にするのは先送りにして、目の前の日常生活をできるだけストレスなく維持することを心がけなければいけない。だからこれまでの結果に矛盾がない睡眠七回での交替を前提としながら行動することにした。もしも、それでは解釈できないイレギュラーが再び起こったら、その時はその時で対処する。そういうことにした。ただし、念のためにおおよその睡眠時間を記録に残し、お互いちょっとした居眠りをしたときにも一応申し送りすることにした。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年4月13日公開

作品集『片羽を落とす』第2話 (全6話)

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