IX
わたしはこの子の夢の中にいるの?
そもそもこの子は誰なの?
勝手にわたしを引っぱり出さないでくれるかな。あなたはそれでいいのかもしれないけれど、わたしとしてはたまったものじゃないわ。
彼女が身を乗り出して、不遜な笑顔を見せる。
どうして?
どうして、じゃ、ない……。
にやりと歪む唇に気圧されて、わたしはどうにも歯切れが悪い。まあ、いいわ。どうせわたしの役回りなんて、あなたに都合良く作られているわけでしょ。えっと、ここはわたしの部屋なのかしら……骰子のように四角い部屋だ。壁も床も天井もコンクリートの打ちっ放しで、テーブルとベッド、いくつかの家具。飾りっ気は全くない。あまりに殺風景でとても女子の部屋には見えないけれど、きっとわたしの住処なのだ。これだって、あなたの記憶からできている。いったいわたしをどんな人間だと思っているのだろう。
久しぶりに訪ねてきたんだから、もっと楽しいお話しをしましょうよ。
彼女がわたしをじっと見つめる。
ああ、うん、そうね。
四角い窓から灰色の街が見える。街も全部コンクリートでできているみたいだ。それとも曇っているせいなのかな。昼のような夜のような、淀んだ時間が流れるでもなく漂っている。見たこともない風景になぜか郷愁を感じてしまう。
相変わらず彼女が何を話しているのかわからない。それでもわたしはときどき笑い、相づちを打つ。自分でも理解できない言葉が口をつく。与えられてもいないシナリオに振り回されているようでとても気持ちが悪い。
るりゃてぁ。
え?
今日のあなたはヘンだわ。
彼女にじとりとした目で見つめられ、お腹の奥から焦燥がこみ上げる。気持ちがざわめく。身体がはち切れそうに熱くなる。考えてもその理由など思いつくはずもなく、これもあらかじめ決められていることなのだろう、わたしはその筋道に導かれ、きっと勝手にお喋りをし、何かをしでかすのだろうと、続く自身の行動を待っているけれど、ただ凝り固まってしまう。それが用意された回答なのか、それとも、わたしは本当にどうしていいかわからず困っているのかもわからず、焦燥に焦燥が重なって、オーバーヒートを起こしてしまいそうだ。
彼女も口を開かない。指先さえ動かさない。瞳も座ったままだ。
時間がゴムのように引き延ばされている。
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