XV
彼女とわたしは身を寄せ合って眠っていた。
棺のような狭いベッドの中で眠っていた。
額を寄せ、手を合わせ、脚を絡めて双子のように眠っていた。
あたりは薄暗くて、不安になるくらい静かだ。ここはどこだ。部屋の中なのか外なのかもよくわからない。わたしは彼女の寝息だけを聞きながら浅い眠りの中にいた。眠りの中で眠っていることをぼんやりと知っていた。
彼女の吐息が唇に当たる。甘いチョコレートのような香りがする。暖かくほんのり湿ったその吐息には、言葉にならない言葉が混ざっていた。寝言にもならない寝言。彼女も夢で夢を見ているのだろう。今は、そういう時間なんだろう。
どこまでが夢だかよくわからない私は、それでも彼女を抱きしめたくなる。愛おしくて愛おしくて抱きしめたい。しかし、それができないのは私がうとうと眠りの狭間を彷徨っているせいなのか。薄目に映る彼女の顔は、夢の彼女なのだろうか、あるいは夢の夢の彼女だろうか。思ったところで、どうしようもない。所詮、私は私じゃない。何もかもが私の意志とは関係なしに紡がれてゆくのだから、ただ、この有様に甘んじていればいい。
彼女にとっての私はきっと何かの象徴なのだ。
夢とはおしなべてそういうものだと聞き覚えがある。
わたしの姿に、わたしの行動に、彼女が読み取る物語は、彼女にとって幸せなものなのか、不幸なのか。喜び、哀しみ、恐怖や怒り。私は感情のどこを刺激しているのだろう。目覚めれば粉々に崩れてしまう夢だ。わたしも一緒に崩れ去る。わたしが煽った気持ちだけを名残として、彼女はきっと何かを思う。わたしは自分の役回りも知らずに彼女の記憶の奥底へと仕舞い込まれるのだろう。いや、もうとっくに仕舞い込まれているのか。
彼女の寝言混じりの吐息に、わたしも吐息のような寝言で応えていた。それが聞こえたのかたまたまなのか、彼女が薄らと微笑む。それは、夢の中の夢で私がそう感じただけなのかもしれないけれど、わたしではないわたしには現実などないのだし、浅い眠りと現の狭間、という夢のトラップに囚われて、すべてが虚妄でしかないかもしれない。それでも、彼女が微笑んだと思うわたしが、きっと彼女に鏡となって、夢の中で夢を見る彼女に何かを伝えているのだ。
なんだか考えることすら面倒になってきた。
わたしが考えていることになど意味はない。
わたしの言葉など、誰の言葉でもない。
わたしがわたしの現実で目覚めることはあるのだろうか。
わたしはわたしの夢を見るべきなのに、どうして彼女の眠りなどに付き合っているのだろう。こんなつまらないことをいかにも意味ありげにを考えてしまうから、いるはずもない自分自身の存在を信じてしまう。
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