XIII
私は子供だった頃のことを思います。
淡い色の少女と同じくらいの頃。
10歳とか、12歳とか。
私はとても平凡な女の子だった。そう、思っています。普通で、それほど目立たず、だからといって存在感がないわけでもなく、友達も少なからず多からず。得意なことがあるわけでもなく、でも、そのかわり不得意なことも特別ない。5人のグループなら3番目のポジション。
私はそれでいいと思っていました。
勉強のできる子、スポーツで活躍する子。そんな子たちを少し羨ましく思いながら、取り立てて秀でたところのない自分を仕方ないと諦める。ほどほどに努力はするけれど、少し背伸びの目標を達成できれば、とても満足で身に過ぎた望みは抱かない。ときどき褒められ、ときどき叱られ、ときどき辛く、ときどき悲しく、でも、まあまあ楽しく、それなりに退屈している。
良くもないけど悪くもない。
楽しかった思い出だけを集めておけば、ささやかな幸福感に浸れるのです。
私はそれでじゅうぶんだった。
そんな可もなく不可もないような子供のままでいたかった。
だからでしょうか。
私は将来の夢を聞かれることがちょっと苦手でした。大人になったら何になりたいの? そう聞かれてもよくわからなかった。小さな頃は、大人になる、ということ自体がわからなかった。ひとつずつ歳をとって、子供はだんだん大人に近づいてゆくことを理解してからも、大人になった自分を想像することができません。だから、何になりたいかと効かれてもわからない。お花屋さん、とか看護師さん、とか、とりあえず適当に答えてはいたけれど、本当になりたかったわけじゃない。
今から思えば、大人になった自分を想像するのが厭だったのかもしれません。子供のままじゃダメなのかな。私、子供のままでいいんだけどな。はっきりそう思ったわけではないのだけれど、たぶん、私は大人になんてなりたくなかった。そんなこと少しも望みはしなかった。初潮を迎え、胸が膨らみはじめ、中学校の制服を着て、私からだんだん子供が剥ぎ取られてゆくのを感じていました。子供の私が少しずつ、少しずつ、遠ざかってゆくのを感じました。そういうものだとわかっていながら、名残惜しく思うのでした。
淡い色の少女は笑うのです。
私は私、だから。
口をついて出た言葉の意味がわかりません。それは彼女の言葉で、それでもきっと私の言葉で、その意味は私にしかわからないはずなのに。
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