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私を着る

REFLECTION(第3話)

加藤那奈

制服を着る/私を着る
制服を脱ぐ/私を脱ぐ
誰かが誰かに恋をしている。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,382文字

IX

 

僕は恋をしている。

誰に、とか、そういうことは、まあ、いいじゃないか。片思いだし。

自分で片思いだなんて決めつけるべきではない、と? いや、決めつけてなんかいないよ。それはただの事実だ。誰でも、どんな恋でも、最初は片思いなんだから、って、それは僕を励ましているのかな。なぜ、励ますの?

ああ、そうか。君はお互いに思いを寄せ合うことで、片恋がひとつの恋愛関係に昇格すると思っているんだね。普通に考えるならきっとそうなんだね。確かにそうだ。君は正しい。それを否定はしないし、できない。ただ、僕の考えは違うんだ。君からすれば僕は最初から間違っているにちがいない。

ならば説明してみろ、と? どう違っていて、どう間違っているか説明せよ、と? それはきっと無理だ。なぜなら僕にもよくわからない。君の考える恋と、僕の考える恋は似て非なる。そこまでは直感できてもうまく言葉にできない。どんなに言葉を重ねても僕の考えとは別物になってしまいそうだ。そもそも恋を言葉に縛られた概念にしてしまうのはとっても無粋だ。エレガントじゃない。それにわかってしまえぱ、わりとくだらないことかもしれない。目を閉じるのか瞼を閉じるのか、その程度の違いでしかない。

誰に恋してるかなんていいじゃないか。

僕のこんな台詞から、僕が照れていて、恥ずかしくて、誰かをはっきり言わないで、言えないでいるんだと、君は勝手に決めつけているんじゃないかな。誰かはっきり言わないのは、君が知っている誰かだからかもしれないとか、あるいは、想像もしていない意外な相手なのかもとか、もしかしたら、ちょっと口には出せない、他人に知られるのを憚るようなアブノーマルな恋なんじゃないか、とか、邪推を巡らせているのじゃないかな。

邪推も憶測もかまわない。

僕は、興味本位の想像を妨げようとは思わない。

所詮興味本位だ。そこから、真実には辿り着けないよ。君の興味そのものが、バイアスを産むんだ。君は、君の文脈で恋を理解している。それは仕方ないことだ。だが、他人をその理解でトレースしても無駄なんだ。僕だけじゃない、君以外の誰に対しても、だ。

君にとって僕は世界の果てほど遠くにいるんだ。物理的な距離や親しさの程度じゃないよ。立っている場所が違う。僕の言葉は初めて聞いた外国語のように理解できない。レベルが高いとか低いとか、そういうお話しではなくてね、根本的なリテラシーが違うんだよ。同じ言語を使っていても、語学的には同じ文法を使って言葉を組み立てていても、パズルのように組み立てられた幾つもの単語の意味するところが辞書の上では同じでも、ね。

こんなふうにあまり突き放したら、君に嫌われてしまうね。

それじゃあね、ひとつだけ。

僕は恋すると、時間を止めることが出来るんだ。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年1月27日公開

作品集『REFLECTION』第3話 (全6話)

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