VII
学校の授業が終わる。部活はしていない。友達はそれなりにいるけれど、あんまり群れるのが好きじゃない私は、つかず離れずの微妙な距離を保っている。そのつもりでいる。だから、決まって遊びにいく仲間のような友達はいない。たまには、付き合わない?と誘われて、ときどき道草を食う程度の遊びに付き合う。
そんなことしてると、友達、私しかいなくなるよ、と、ケイが笑うけど、まあ、それでもいいかって。
だから、たいていは真っ直ぐ家に帰る。
早く帰らなきゃ、と、思う。
早く帰って、このネクタイを解かなきゃ。
ネクタイ解いて、私を私に返さなきゃ。
学校の制服を嫌っているわけじゃない。ネクタイも好きだし、テーラードジャケットのボタンを締めて、軽く身体を締め付けられるような感触だって、けっこう好きだ。
でも、同時に何かを切り捨てている。私はそれを知っているから、私を身に纏い、私を脱ぎ捨てる。
ただいま。
玄関を上がって、自分の部屋に飛び込む。上着を脱いで、ネクタイを外して、スカートもシャツも脱いで。下着になって、なんだかほっとする。私は私を取り戻したようにも、取り外したようにも感じる。姿見に映った私は、衣装を剥ぎ取られた着せ替え人形に似ている。もっともそんなに可愛くないし、体つきだって貧弱だけど。制服をハンガーに掛けてから、ゆっくり着るものを選ぶ。この三十分にも満たない時間が、普段の一日で私が私でしかない時間だ。私にとってとても愛おしい一時だ。一応断っておくけれど、別に下着姿でいることが好きなわけではない。服を着ていないことが私を誰でも無い私にする。余計な力が抜けて楽になる。誰にも見られていないことも大切だ。もし、誰かに見られたら、それがたとえ親しい女の子の友達でも、羞恥が別の私を呼び起こす。
家で過ごす時の普段着は、だいたい決まってはいる。それは父や母に見られ、言葉を交すための衣装だ。Tシャツ、短パン、ワンピース……制服のように決まってはいないから、その日の気分の違いが滲み出てはしまうけれど、父や母にとっては見慣れた、空気にもほど近い自然な私になり、家の空気に馴染み、家族の中に溶けてゆく。
小花柄のワンピースに袖を通した。コットンのさらさらとした肌触りが、制服の時とは違う私を呼び覚ます。
私は母の家事を手伝う。家では、真面目で素直でいい子、なのだ。宿題を片付け、簡単に予習復習をする。これは自分のためではない。制服の私が困らないようにしているだけだ。他人事に近い。
ケイからメッセージが入る……――ルゥ、今はどんなルゥ?
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