IV
あんたはなんでもかんでも考えすぎなのよ。
ケイが私の向かいで頬杖をつく。
まあ、それが面白いんだけど。
自分で考えていてもなんだか面倒くさい私自身のメンタルなんて、誰にも話す気など無かったのだけど、ケイにはいつのまにかすっかり話していた。彼女が聞き上手なのか、乗せ上手なのか、自分でも上手く話せない混乱した感情や感覚を頷きと相槌で、肯定するでもなくかといって否定もせず、ただ、笑って、へぇ~と、聞き出していた。
入学して初日、たまたま同じクラスの隣の席だったという普通なら席替えと共に疎遠になってしまう程度の儚い縁でしかなかったはずなのに、1年と半年たった今、2年になってクラスが変わったというのに、必ず週1回は私の前に現れて、ケイは私の前で頬杖をつく。性格も趣味も全然違うのに、一緒に遊ぶことだってあんまり無いのに、なぜだが彼女とは縁が続いている。
ええ? だってルゥは私のことが好きでしょ。
え、あ、うん。そう、かも?
かも?
えっと、うん、そう。
相思相愛、なんだよ。そうね、私的には一目惚れ、だから。
私のどこに一目惚れされるようなところがあるのだろう?
彼女曰く「ひ・み・つ」なのだそうだ。
そんなの聞くなんて野暮だよね、ルゥは。ここ、とか、あそこ、とか指でさせるようなものじゃないでしょ。それにね。言葉にしてはいけないのよ。言葉にした途端、別物になって色褪せちゃうの。言葉にするとね、わかりやすくなる分、大事なことを置いてきぼりにするんだよ。
ちゃらちゃらした性格のくせに、ときおり哲学的なことを言う。
何言ってるかな。見た目なんて意味ないでしょ。それはあんたのメンタリティじゃかなったかな。
それは確かにそうなんだけど。だからかな、ケイが今話しかけてる“あんた”って、どの私なんだろう、なんて考えちゃうんだよ。
そんなの私の知ったことじゃないけどね、私は去年の4月に私の隣の席に座ってた子が“あんた”だよ。もっと言えば、それ以外の“あんた”なんて私は見たことなんてないんだけどね。わかってるよ。きっと私に区別がつかないだけなんだ。ねえ、ルゥ。考えすぎなんだよ。考えるって理解しようとすることでしょう。理解できないことを理解しようとすることでしょう。でも、それっていいことなのかな。数学とか科学みたいにルールがあるなら理解はできる。でも、あんたのアタマはそんなロジカルにできてないでしょ。
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