メニュー

私を着る

REFLECTION(第3話)

加藤那奈

制服を着る/私を着る
制服を脱ぐ/私を脱ぐ
誰かが誰かに恋をしている。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,382文字

XIII

 

家のお風呂に誰かと一緒に入るなんて、何年ぶりかな。

私はルゥと向かい合って湯船に浸かっている。大人ひとりで脚を伸すのが精一杯の家風呂だから、いいかげん成長したふたりが一緒にはいるとやっぱり狭い。お互い膝を抱えながら、湯船に浸かる。ルゥは恥ずかしそうに瞳を泳がせている。

ごめん。無理矢理連れ込んじゃったかな。厭だった?

やっと視点が定まって、私の顔をじっと見つめる。

落ち着かないの。

ふたりでお風呂、が?

うん、それもあるけど。でも、それより裸でいるのが。

もしかして、恥ずかしいの? でも、お風呂で裸は仕方ないじゃない?

恥ずかしくないって言ったら嘘だけど。だって、ケイの方がスタイルいいし。でも、それよりね、裸になるとちょっとだけ不安なの。だから、ひとりでもお風呂は落ち着かない。

普通は、開放感があって、のんびり出来て、落ち着くんじゃない?

そうだよね。ヘンだね。どうしてかな、何か身につけてないと、私は自分が誰だか見失ってしまいそうになるのよ。ふわふわして、私に重さがなくなって、形も曖昧になって、ドライアイスみたいに蒸発しちゃう、みたいな感じかな。

ふぅん。そうなんだ。ルゥはやっぱり面白いね。じゃあ、こういうのはどうかな。

え、なに、ケイ……。

私はルゥに抱きついたの。どう? 私を纏ったルゥは、蒸発しないかな……どうしたの、ルゥ……あれ、もっと厭がるかと思ったけど。私じゃ貞操の危機は感じないか。

ううん、感じるよ。私、壊れちゃいそうだ。

ルゥが笑った。

その瞳に、少しだけ彼女のことがわかった気がした。私が少しも彼女のことを知らなかったことがわかった気がした。私が彼女にどうして惹かれるのか、理解した気がした。ルゥは強くて、脆い。

その夜、私たちは同じベッドで寝た。

裸で抱き合って寝た。

ちょっとだけ、唇を重ねた。でも、それ以上は何もせず、ただ抱き合うだけ。もしも、私が求めたら、ルゥはそれに応えてくれたような気がする。ルゥが求めてくれたら、私もきっと応えたと思う。でも、彼女は私に何も求めない。私はただ、傍で彼女の様子を眺めているのが心地よかった。

裸で私に抱かれているルゥ。制服で私の話に白けた目を向けるルゥ。お嬢様みたいなワンピースで、私と並んで街を歩くルゥ。私には結局みんな同じルゥだけれど、制服じゃないルゥの小さな仕草や、ちょっとした言葉の端が新鮮だった。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年1月27日公開

作品集『REFLECTION』第3話 (全6話)

読み終えたらレビューしてください

みんなの評価

0.0点(0件の評価)

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

  0
  0
  0
  0
  0
ログインするとレビュー感想をつけられるようになります。 ログインする

著者

この作者の他の作品

「私を着る」をリストに追加

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 あなたのアンソロジーとして共有したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

"私を着る"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る