XIII
家のお風呂に誰かと一緒に入るなんて、何年ぶりかな。
私はルゥと向かい合って湯船に浸かっている。大人ひとりで脚を伸すのが精一杯の家風呂だから、いいかげん成長したふたりが一緒にはいるとやっぱり狭い。お互い膝を抱えながら、湯船に浸かる。ルゥは恥ずかしそうに瞳を泳がせている。
ごめん。無理矢理連れ込んじゃったかな。厭だった?
やっと視点が定まって、私の顔をじっと見つめる。
落ち着かないの。
ふたりでお風呂、が?
うん、それもあるけど。でも、それより裸でいるのが。
もしかして、恥ずかしいの? でも、お風呂で裸は仕方ないじゃない?
恥ずかしくないって言ったら嘘だけど。だって、ケイの方がスタイルいいし。でも、それよりね、裸になるとちょっとだけ不安なの。だから、ひとりでもお風呂は落ち着かない。
普通は、開放感があって、のんびり出来て、落ち着くんじゃない?
そうだよね。ヘンだね。どうしてかな、何か身につけてないと、私は自分が誰だか見失ってしまいそうになるのよ。ふわふわして、私に重さがなくなって、形も曖昧になって、ドライアイスみたいに蒸発しちゃう、みたいな感じかな。
ふぅん。そうなんだ。ルゥはやっぱり面白いね。じゃあ、こういうのはどうかな。
え、なに、ケイ……。
私はルゥに抱きついたの。どう? 私を纏ったルゥは、蒸発しないかな……どうしたの、ルゥ……あれ、もっと厭がるかと思ったけど。私じゃ貞操の危機は感じないか。
ううん、感じるよ。私、壊れちゃいそうだ。
ルゥが笑った。
その瞳に、少しだけ彼女のことがわかった気がした。私が少しも彼女のことを知らなかったことがわかった気がした。私が彼女にどうして惹かれるのか、理解した気がした。ルゥは強くて、脆い。
その夜、私たちは同じベッドで寝た。
裸で抱き合って寝た。
ちょっとだけ、唇を重ねた。でも、それ以上は何もせず、ただ抱き合うだけ。もしも、私が求めたら、ルゥはそれに応えてくれたような気がする。ルゥが求めてくれたら、私もきっと応えたと思う。でも、彼女は私に何も求めない。私はただ、傍で彼女の様子を眺めているのが心地よかった。
裸で私に抱かれているルゥ。制服で私の話に白けた目を向けるルゥ。お嬢様みたいなワンピースで、私と並んで街を歩くルゥ。私には結局みんな同じルゥだけれど、制服じゃないルゥの小さな仕草や、ちょっとした言葉の端が新鮮だった。
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