XI
制服のスカートの丈をほんの少し短くするだけで、私はずいぶん気持ちが楽になる。
校則には抵触しない程度だからきっと誰にも気づかれない。
ほとんど意味の無い丈詰めに、私は精一杯の手間を掛ける。
ただ裾を上げるのではない。ウェストベルトを外してウェスト側を少し切り落とし、スカート丈全体を短くする。プリーツスカートだからとても面倒だけれど、これが一番きれいに仕上がる。
その程度なら、着方で調整すればいいんじゃない?
うん……でも、そういうことじゃないんだよ――無駄な自己満足と言われてもしかたがないし、きっとそうなんだろう。でも、私にとっては、この1、2センチの違いが、世界の景色を換えるくらいに大きいことなのだ。
しっかりと縫い付けられた糸を丁寧に解いてゆく。
プリーツが崩れないようにまち針で整える。
慌てずに時間をかける。不器用な指先に少し苛立ちながら、でも、その気持ちを堪えてゆっくりゆっくり作業を進める。
なんてバカなことしてるんだろう。自分自身、何度も何度も思いながら、途中、投げ出したくなりながら、それでも遅々と手を動かす。いくつかの部分に分解されたスカートを眺めて、なにかとてもいけないことをしてしまった気分になる。衣服としての形と機能を失った布の断片がただ目の前に並ぶ。それを眺めているうちに、言葉に出来ない罪悪感と快感が入り交じる。
目に見えて丈を短くするとか、他の装飾を挟み込むとか、誰の目にも明らかな改造をしている過程ならもっと誇らしい気分になるのだろうか。でも、私の場合、創造性の片鱗さえなく、誰にも気づかれない申し訳程度の丈詰めをして元の形に戻すだけなのだ。何もしなかったように、ただ、組み立て直すだけなのだ。しとしとと浸る快感は後ろめたく、ふるふると心震わす罪悪感は自虐的な悦びを醸し出す。
切り落とす僅かな幅に印をつける。
裁断ばさみを入れる。
私は積極的にスカートを傷つける。
この取り返しのつかない行程が、私の気持ちに混乱と諦めと、平静をもたらすのだ。
切り離された細長い紐状の生地をそのままゴミ箱に放り込む。たぶん、その中に制服の本質が宿っていたのだ。残りの部品を元のように組み立て直しても、もう別物なのだ。見た目はほとんど変わらないけれど、それは既に偽物なのだ。
解く時以上に丁寧に、時間をたっぷりかけながら、ばらばらの部品を縫い合わせてゆく。深呼吸を何度もし、老人が歩くような速度でミシンを進める。
私が身につけるにふさわしい、偽物のスカートができあがる。
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