VR世界の住人で一生を終えたい

名探偵破滅派『龍の墓』応募作品

諏訪靖彦

エセー

3,186文字

名探偵破滅派参加推理。お題は貫井徳郎『龍の墓』

 

本作はVRゲーム『ドラゴンズ・グレイブ』内と現実世界で起こる連続殺人事件を行き来しながら物語が進んでいく。

課題範囲を読み終える前に『ドラゴンズ・グレイブ』の内で読者もとい、プレイヤーへの挑戦状が提示されたため、こちらから推理を始める。

 

ゲームは剣と魔法の冒険ファンタジーであり、その特殊環境の中で起こる連続殺人事件を解決するといった趣向だ。第一の殺人及び第二の殺人は犯人が魔法が使えなければ犯行を成しえず、その魔法に色々と縛りを設けることで謎解きミステリを構築している。第三の殺人は如何にして犯人が密室である家主の寝室に入ることが出来たのかがポイントとなる。

【ヴァリス殺し】

道具屋リゴールは炎塵魔法を使えるものでなければこの犯行は行えないと言った。そして炎塵魔法を使いこなすには腕にやけどを負うような厳しい練習をしなくてはならないからと滞在者に腕を見せ合わせた。料理人を除く誰もが腕にやけどの跡がないと分かると、産まれもって魔法使いの素養があればやけどはしないかもしれないと補足する。これは明らかに不自然だ。リゴールは滞在者の中に一人くらいは炎塵魔法を使えるものがいるかもしれないと思いそう言ったのだろう。

瀧川は屋敷に来た順番を気にしていた。ヴァリスを狙って来たのなら後から来たものが怪しいそうだ。しかし、その後、連続殺人に発展し、領主ランキンが殺されたあとにプレーヤーへ挑戦状が提示されたことにより犯人の最終目的はランキンを殺すことだったと分かる。

ヴァリス殺しの犯人はリゴールである。だが、リゴールが魔法使いだとは考えていない。道具屋リゴールはランキンを殺すのに邪魔になると考えゲーム内で出てきた迦具土石を使いヴァリスを焼き殺した。

【ダレス殺し】

犯人はランキンを殺すには昔ボディガードをしていたダレスも殺す必要があると考えた。カードで予言された通り疾光魔法によってダレスが殺されたかのように話は進むが、カードを見て疾光魔法と言い出したのはリゴールであり、ダレスの死体を検分し疾光魔法によって殺されたと言ったのもリゴールである。ダレスの部屋まで行き来するには予備の靴が必要だが、使用人以外で予備の靴を持っているのはリゴールだけである。しかも知らぬ間に盗まれて返されていたと言った。

ダレス殺しの犯人もリゴールである。リゴールは予備の靴を使いダレスのもとに向かい、ダレスの部屋にあったナイフで胸を突き刺した。凶器のナイフは日ごろダレスが趣味としていた木製細工を作るナイフであり、リゴールはダレスを殺したあと、それを持ち帰った。ダレス趣味は木製細工を蒐集するのではなく作ることだった。

【ランキン殺し】

当然犯人はリゴールである。が、解かなくてはいけない謎が二つある。一つは密室、もう一つは骨折しているリゴールがどうやってランキンを絞殺したのかである。一つ目の謎から考える。

ランキンの寝室にあるはずの避難口は固定されていて動かせる状態ではなかったし、娘のフローレンスは知らない間にランキンが寝室の避難口を塞ぐことは考えにくいと書かれている。そのことから避難口は事件発生時まで存在していたと考えられる。リゴールは事前に避難口の存在を知っていた。その避難口を使いランキンの寝室に入りランキンを殺して避難口から外に出た。ではリゴールはどうやって避難口を塞いだのか。それは彼が道具屋であることに関係している。瀧川ことアリエスが壺を割った少年に渡した水を掛けると瞬時に固まる粘土をリゴールは持っていた。リゴールはそれを使い寝室の外から避難口を塞いだ。

二つ目の謎だがリゴールは骨折している。これが虚偽だとアンフェアになる。町医者に診せて骨折していると判断されたから骨折は間違いないだろう。骨折しているリゴールがどうすればランキンを絞殺できるのか考えてみたが、納得のいく答えを見つけられなかった。鳥の糞が関係していると思えるが、そのつながりを見つけることが出来なかった。いささか苦しい推理になるがリゴールは犯行前に骨折すら治る薬草を使ったことにする。

 

次に現実世界の連続殺人事件を推理する。『ドラゴンズ・グレイブ』での事件とは違い、こちらはアリバイ崩しがメインになる。犯人候補は春日井ほのかのファンであった浜部、山木、吉村の中にいると考えてよいだろう。単独犯でなはないかもしれないし、課題範囲より先に何者かが登場すればその人物と共犯かもしれないが、それを排し前述三人に絞って推理を進めていく。

【亀沢殺し】

推理するにあたって亀沢殺しの死亡日時が全く記述されていないことに気が付いた。他の二件の殺人事件より前に起こったことは間違いないが、それが何月何日なのか分からない。死体発見の翌日聞き込みに行った土地所有者から前日の9時までに遺体がドラム缶の中に入っていなかったと提示されているだけである。よってこの事件の犯人を課題範囲までの記述で特定することは出来ない。通報者が男であることくらいだ。日時が記載されていないことから時間誤認トリックが使われているのは間違いないが、それが何の意味を持つのかは分からない。次の事件に進むことにする。

【江川殺し】

江川の死亡推定時刻は6月15日21時から23時だ。男性からの通報により江川は死体で発見され、死後時間が経っていないため、死亡推定時刻の推定が容易だった。死体の発見を早まらせなければならなかった男性が江川を殺したことになる。よって浜部は除外する。山木か吉村の犯行となるが、山木は21時に宅配便を受け取っている。宅配便は21時から23時などといった時間指定で届く。いつ届くか分からない荷物を待っている間に犯行の機会を逸してしまう可能性があるため犯人候補から外す。残るは吉村だ。21時からジョギングしているのとのことだが2時間以上ジョギングをしていたとは考えにくく唯一犯行を行える人物だと考えた。よって江川殺しの犯人は吉村である。

【田ノ浦殺し】

田ノ浦の死亡推定時刻は死体発見から72時間以内とされている。また、6月16日23時にネットを使用した形跡があることから、それ以降の殺害されたものとみられる、と記述されている。しかし16日23時にネットを使ったのが本当に田ノ浦自身なのだろうか。72時間もの幅があるのなら、15日に田ノ浦を殺害し、16日23時に再度田ノ浦宅に侵入しネットを使い死亡時刻を偽装工作することも可能だ。この殺人には通報者はいないため、三人すべてのアリバイを検証する必要がある。まず浜部だが、浜部は女性であるため女性の部屋に侵入するのは容易いだろうが、女性の力で絞殺するにはたとえ相手が女性であっても難しいと考えた。もし殺すならば刃物の方が手っ取り早い。次に山木だが田ノ浦の死亡推定時刻に幅があるため犯行は十分に可能である。しかし、江川殺しと田ノ浦殺しは『ドラゴンズ・グレイブ』の見立ててで繋がっている。江川殺しの犯人でなければ田ノ浦殺しの犯人でもない。最後に吉村だが『ドラゴンズ・グレイブ』のリゴールと同じく手首を骨折している。一見絞殺は不可能に思えるが、骨折する前に犯行に及んだとしたらどうだろう。15日に田ノ浦を殺したあと同日江川を殺し警察に通報したあと、偽装骨折し病院に向かった。そして犯行現場に犯行順序を誤認させるために『ドラゴンズ・グレイブ』の殺害順序にのっとった見立てとしてカードを置いた。以上の事から犯人は犯人は吉村である。

 

最後に殺害動機だが、『ドラゴンズ・グレイブ』では領主の圧政に苦しんでいた領民を救うため、現実世界では春日井ほのかを自殺に追いやった者たちに鉄槌を下すため、恐らくそのような理由だろう。

 

 

パズラーにおいてホワイダニットは二の次である

 

2024年6月16日公開

© 2024 諏訪靖彦

これはの応募作品です。
他の作品ともどもレビューお願いします。

この作品のタグ

著者

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

"VR世界の住人で一生を終えたい"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る