「Employment examination-就職試験―」の最後でインタビュアーが嶌であることが明かされる。それによって波多野が病死したことが読み取れ、冒頭の波多野の文章が嶌に託されたものであることが想像できる。もしかすると波多野と嶌は就職試験後に恋人関係になっていたのかもしれない。いずれにせよ嶌は波多野が犯人ではないとこと知っており波多野の調査資料を手に入れることが出来る立場にあった。そこに書かれていた犯人が本当に正しいのかを確認するため嶌は事件関係者にインタビューを行った。嶌が犯人だった可能性も残されているが、逃げおおせた事件について関係者に話を聞く理由を見つけられなかった。
事件の犯人を探る鍵はどこにあるのだろうか(嶌は容疑者から外すことにした)、やはり四月二十日午後四時のアリバイに注目するのが良いのだろう。犯人は飲み会の席で波多野が次の打ち合わせを二十日にしてはどうかと提案したとき、波多野と九賀以外全員予定があることを知った。また森久保のスケジュールの詳細も知ることが出来た。そのことを踏まえて、四月二十日のアリバイに事件の焦点を向かわせたのは誰か。
森久保が告発封筒を置いた犯人であり、これ以上封筒を開けないといった流れになったときに、九賀が今まで開けた封筒のなかに入っていた写真に同じカメラでないと現れないノイズがあると言い出した。あわせて自分の写真が撮られた日が四月二十日午後四時だとも言った。これがなんとも引っかかった。この展開から四月二十日にアリバイのない人間が犯人であると舵が切られたのだ。そして森久保の写真が撮られたのが同日午後二時頃だと判明し、唯一アリバイがない波多野が犯人に仕立て上げられた。
犯人は九賀だ。自身の写真が撮られた(撮った)午後四時についてはどうとでも話が作れる。タイマーで撮影していたかもしれないし、実際は別の日だったかもしれない。四月二十日午後四時にゼミに出席した事実さえあれば良いのだから。しかし森久保の写真を撮ったときのアリバイが崩せない。その時間ゼミに出席していたことはゼミの先生が証言している。
ここで行き詰ってしまった。ディスカッション中に森久保が握りつぶした紙切れから、森久保と九賀が共犯である可能性も考えたが、森久保へのインタビューの最後に森久保が犯人は嶌だったのではないかと言ったのが腑に落ちない。また、九賀が犯人たる動機も見いだせなかった。この一件で最も得をしたのは最後まで告発封筒を開けられずに済み、無事スピラリンクスに入社できたのは嶌であって九賀ではない。女性を妊娠させたあと振ったなどという告発文を公開されるたあと自分が選ばれるとは思わないだろう。
他にも解決出来なかった問題がある。
・飲み会の席で九賀が波多野を誘ってトイレに行った時の会話が抜けている。いったい波多野と九賀は何を話したのか。
・試験会場での矢代の不審な行動とインタビューで語った脅迫されていた云々との繋がり。
上記問題についても納得いく答えが見つけられなかった。
とういったわけで、犯人は九賀、動機は不明、というなんとも名探偵失格な解決になってしまった。因みに波多野が試験会場から持ち帰った嶌の封筒に書かれていた内容だが、四回目の打ち合わせ時に波多野が眠っている嶌にブランケットをかけたとき、起き抜けの嶌が「……お兄ちゃんかと思った」と言った。唐突に出てきた兄の存在が、「Employment examination-就職試験―」では説明されていない。恐らく嶌の封筒には兄と関係する何らかの出来事が書かれていたのではないだろうか。それは封筒を開けられることを徹底的に拒んだほど衝撃的なことなのかもしれない。
最後に、鴻上のインタビューだけタイトルの最後が①となっている。「And then―それから―」では鴻上のインタビューで嶌と鴻上の会話の中から真相が語られるのかもしれない。またしても名探偵失格な私はカタルシスを求めて続きを読み進めることにする。
追記
うがが、私はとんでもない勘違いをしていました。出題範囲は「And then―それから―」の第二章までだったんですね。第二章「And then―それから―」までだと勝手に勘違いして「Employment examination-就職試験―」を読み終えた時点での推理を開陳してしまいました……。皆さんの推理に目を通しているときにそんな出来事あったかしらと出題範囲の違いに気が付き、「And then―それから―」の第二章まで読んでからもう一度挑戦しようと思いましたが、皆さんの推理に目を通してしまった故、アンウェアになるので止めました。
私はやはり名探偵失格です。
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