あたしはナンバーワンの座を手に入れた。
看板嬢になったあたしが眩いパネルの中で心からの笑顔で笑っている。
桜の花が、またギラギラと輝く風俗街に咲き始める。
ふっくらとしたピンク色の蕾から放たれる甘い香りが風俗街を染めている。
もうすぐあたしは18歳。
ナンバーワンの称号を与えられるまで、ジプシーのあたしは店を飛ぶこともなかった。
あたしは、ここで、この店で、ナンバーワンになってやる。
風俗街でもグループ内でも最高級の値段とサービス。
絶対に他のキャストには負けたくない。
そんな思いで、働き続けた。
ネットの掲示板にはあたしの源氏名のスレッドが乱立している。
「プラス2万で本番って本当?」
「あいつ、絶対整形してるよねwww」
「店長と歩いてるところこの前見たーwww」
「5万でゴム無し本番嬢」
「また中絶したんだってwww」
「まじウケるwww」
「絶対クスリやってんだろ」
キャストも客も、みーんなバカばっかり。
それでもあたしはそのスレッドの中毒性にどっぷりはまってしまった。
ドラッグと同じだよ、こんなの。
その下品なくだらなさにも、あたしを妬み憎み売れないキャストがいるんだろうと思うと、あたしは最高のナンバーワンだと思えた。
店ではすべてが順調だったよ。
サービスも、より客を満足させるため、ディープで過激になった。
どんなに卑猥なポーズでも、猥雑な台詞も、あたしは簡単に吐くことが出来る。
客を見送るときに心から満足そうな笑顔を見ることや、「ありがとう」の言葉が嬉しくてたまらなかった。
あたしはナンバーワンの風俗嬢。
保持するためのテクニックと、誰にも誇れはしないけれど、強力なプライドだけは持ち続けている。
その代償なのか。
必死で稼いだお金は、数時間後にはモノとなり消えていく。
あたしのワンルームの部屋は明けてもいないハイブランドの紙袋で溢れかえっている。
不思議と虚しさは襲って来ない。
あたしの身体や生きていくための価値を計れるモノだから。
流れ星が飛び交う部屋にひとり。
眠剤や向不安剤をプチプチとシートから取り出して身体に詰め込む。
昏倒するように眠りに落ちる、たった一瞬の快楽のために。
あたしは薬物依存で買い物依存、精神障害者の風俗嬢。
レンちゃんとも連絡を取ることが苦痛になっていた。
「女、紹介してよ。病気じゃないイイ女」
レンちゃんの携帯に入っていたメッセージ。
仕事にも就いてギャンブルから遠退いていることは知っていた。
それでもオーバードーズでぶっ倒れ、手首から大量の血を流している女なんて見たくないのは誰だって同じだろう。
自業自得。
あたしにぴったりの言葉だね。
レンちゃんの本心だと思った。
自分にとって都合の良い女を、きっと彼はイイ女だと呼ぶんだろう。
レンちゃんに向けていた感情は、次第に憎しみに変わっていった。
散々あたしの稼いだ金で遊び呆けて今度は女に走るんですか。
もう呆れちゃうよね。
ガキのあたしでさえ騙されたふりをしてやってんのにね。
あんたはなんにも変わっていない。
あんな男、死んじゃえばイイのにな。
生きてる価値、ないでしょ。
あたしは毎晩毎晩、真っ暗なキッチンで必死に包丁を研いだ。
いつかレンちゃんの人生を終わらせるために。
あたしの腐りきった人生を輝くモノに変えるために。
夜毎ピカピカと光を増していく包丁を眺めては、クスクスと笑みがこぼれた。
"ヒステリック エンジェル。"へのコメント 0件