男は射精させてあげないとかわいそう。
そんなことを思うようになったよ。
あたしのナンバーワンは、セックスという裏オプションで守られている。
レンちゃんはギャンブルにあたしが渡したお金を注ぎ込んでいた。
容易く吐き続けていた嘘は重なれば重なるほど、容易く見破ることが出来る。
異常なほどのタバコの匂い、何十枚ものパチンコ屋のメンバーズカード、車に落ちていたスロットのメダル、23:00を過ぎないと鳴らない携帯。
仕事にも就かず、一触即発のスリルを味わうためなんだろうか。
レンちゃんにお金と身体を求められることがいつの間にか当たり前になった。
身を売って得たお金は、フワフワと泡のように消えていく。
でもね。
あたしは必要とされてる。
それだけで、あたしは生きている価値があるんだ。
あたしはレンちゃんを愛してる。
とても歪んでいて、間違った、愛してる。
あたしの部屋のゴミ箱に捨てられた高校入試のパンフレットと白紙の通知表。
あたしの人生には必要がない。
店で着るセーラー服が、あたしの戦闘着だった。
自称18歳というだけで他に武器なんてなんにもないのに。
ナンバーワンになってしばらく経った頃。
いつものようにサービスをして、客を見送るときにあたしは最高の言葉を貰った。
「キミはなんにも考えてないんだね」
さっきまであたしに咥えられて悶えて果てた男が安易に吐いたよ。
裏オプションの5万も出せない男が安易に吐いたよ。
店の入口でびちゃびちゃと激しく音を立てた汚いキスをしてニコニコ笑って見送った後、あたしはとても苦しくなった。
上手に息が出来ない。
慌てて店長があたしのそばに来て、口を紙袋で塞ぎ背中を擦った。
ドーナツショップのシナモンの香りがする紙袋の中であたしは朦朧とするのをただ堪えた。
あたしの存在証明はただ指名のグラフだけ。
なんにも考えていない。
なんにも考えていない。
なんにも考えていない。
わかんなかった。
わかりたくなかったのかもしれないね。
気付くのはとても怖いことだから。
あたしは乱れきった呼吸が収まったあと、泣くことさえも放棄してヘラヘラと笑っていた。
最高の褒め言葉だね。
うん。最高だよ。
その日、仕事が終わり部屋に帰ってから、あたしは剃刀を手首に這わせ、止めていたリストカットをした。
もう痛みなんて感じる心が無いんだと思った。
浅くてろくに血液も出ないような傷でも、切ることで安心を得られたよ。
あたしは生きていてもイイんだって、あたしに言い聞かせるための、作業だった。
あたしはお金を稼ぐ機械じゃないよ。
あたしは性欲を満たす道具じゃないよ。
わかってよ。
レンちゃんは、あたしの傷痕が増える度に、ウザそうな顔をした。
ごめんね。
壊れた女でごめんね。
お金ならいくらでもあげるから。
どうか。
どうかあたしを嫌いにならないで。
捨てないで。
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