あたしは15歳。ピンサロで働いてる。
風俗の世界に入って3ヶ月が経ったかな?
風俗なんて、3日も働けばもうプロだけどね。
ずっと援交もやってたし、抵抗なんてなかったよ。
入れるか入れないか、ピンかグループの違いだよね。
あたしね、バカだから風俗嬢ってカッコイイと思ってたの。
実際ね、お財布に諭吉が何十枚も入ってて、ハイブランドで固めたあたしは同世代で中学生してる子よりも最上級のレベルだったよ。
羨ましがられることは最高にエクスタシー感じるよね。
でもね、あたし、心が真っ暗闇の中にいるみたいなんだよ。
毎日毎日ひとりで泣きながら剃刀で手首を切ってるんだ。
ヘラヘラニコニコ笑ってるけどネ。
淋しいんだよ。苦しいんだよ。怖いんだよ。
あたし、お金がすべてだと思ってるの。
お金はあたしを裏切ったりしない。お金はあたしをひとりにしない。お金はあたしに生きる意味を与えてくれる。
あたしがもっともっと子どもの頃から、毎晩のように見知らぬ男を連れ込みセックスをしている不様な母親。
リビングから聞こえるわざとらしい喘ぎ声に、あたしは耳を両手で塞いで泣きながら寝たふりをしてた。
父親と呼べる男は、いない。
中学校にはほとんど行っていなかったの。
みーんなバカばっかり。
あたしのレベルには到底誰も追いつけるわけがない。
そんなくだらない場所は必要ない、そう、思っていたから。
朝から客引きをする黒服の男たち、嫌味のように輝く風俗街のネオンを見て育ってきた。
青空さえ掻き消されてしまう街。
あたしの感覚は麻痺していた。
男が自宅に来ていないときは乱雑な部屋で母親から繰り返される暴力とネグレクト。
痩せ細った身体には無数に浮かび上がるアザ、タバコを押し付けられ深くへこんだ傷痕。
殺されると思いながら眠ることの恐怖を誰も知ろうとはしない。
あたしの15歳の誕生日。
雑音にしか聞こえなくなった母親の喘ぎ声には決して届かないあたしの最後の言葉。
「ママ、バイバイ」
あたしはこの先二度と開けることのないドアの鍵を、閉めてしまったの。
家を出たのはまだ夜が明けきれていない時間で、ビルの隙間から見える空がオレンジのグラデーションを作り、星を少しずつ殺していく。
あたしは優しく包んでくれるその色に、安堵したんだ。
そしてすぐに援交のリピーターのヤクザに偽造免許証を作って貰い、地元の風俗街にあるギラギラした看板の店に飛び込んだ。
援交の延長線上。
誰にも頼らずに生きていくには身を売るしかないんだよ。
母親を捨て、あたしが得たモノは自由だったんだ。
即、面接合格。
職業、中学生の風俗嬢。
寮を借りて、義務教育を完全放棄して12:00から0:00までのオープンラスト、週6フル勤務。
真っ暗な店内、爆音のトランス。
安っぽいカーテンで仕切られた小さな部屋にザラついたL字のソファー。
トランスに紛れて聞こえる大袈裟な喘ぎ声の中。
ナース、レースクイーン、メイド、チャイナドレスの衣装を着たキャストと呼ばれる女たちが不味い水割りを作る。
その隣では口の中に放出された精液をうがい薬で消毒する女や、プラスチックのカゴに性器を拭くためのおしぼりを用意する女。
異様な感じだったけど、あたしは嫌いじゃなかったよ。
男の精液がなにより大好きないやらしくてお尻の軽い女になれるから。
どんなに抜け出せない暗闇にいても、別のあたしになれるから。
働いて1ヶ月もしないうちにナンバーワンになってたよ。
咥えた数なんてわかんない。忘れた。
指名ランキングのグラフが蛍光のピンク色に塗り潰されていく度に、あたしはこのギラギラした闇に存在していてもイイんだと思ったの。
やっと、あたしは生きていると思えたの。
あたしを拾ってくれた夜の世界は、とても居心地が良い。
誰もあたしを責めたりなんかしない。
誰もあたしのことを嫌いになったりしない。
誰もあたしの存在を否定しない。
ただ、手首の傷だけが、増えていく。
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