生温かい空気が漂い、時間は春へと容赦なく進んでいく頃。
あたしは背中に刺青を突いた。
気味が悪いくらいに痩せたあたしの背中に、一生消えない宝物が出来た。
その生き物は眼球の無い飛べない鳳凰。
ぐるりと長い羽根が渦巻き、鋭く牙を覗かせている。
あたしは針で突かれる痛みとともに快感をも覚えていた。
まるでセックスのように喘いでしまいそうなくらい。
素直な身体と心で痛みを感じる。
その痛みはやがて快感となって、波のようにあたしの性感帯を攻撃してくる。
決して差し伸べられることのなかったこの手は、今、優しい温もりに満ちている。
突いたばかりのボコボコとして刺青に触れると、そっと吐息が漏れた。
ジュンと初めてふたりきりで会ったのは、あたしの19歳の誕生日の夜だった。
ドライブもゴハンもどうでもよかった。
ただ会えるだけでよかった。
ジュンのの時間をあたしにくれるだけでよかった。
待ち合わせの時間よりも早く迎えて来てくれたジュンの車に乗ると、ジュンから放たれるシャネルのエゴイストプラチナムの香りがあたしの性欲に火を点けた。
激しく舌を絡ませるキスをして、そのままラブホテルに行き、セックスをした。
男の性器を身体が純粋に素直に求める感覚を、あたしは初めて知った。
コンドームに溜まったジュンの精液がとても愛おしくて愛おしくて、あたしは舌で絡め舐めた。
このままあたしの体内へと一滴残さずに飲み込んでしまうほど、愛おしくて仕方がなかった。
「お誕生日おめでとう。幸せな一年でありますように」
まだ身体に熱を持ったまま、帰宅したあたしに届いたメール。
あたしは大切に保存して、眠った。
それが最後のメールだった。
ジュンはあたしを騙していた。
気に入ったキャストがいたら、手当たり次第口説いてたんだって。
セックスしてたんだって。
店長に灰皿を投げつけられて灰まみれになって土下座させられてるところ、あたし見ちゃったんだ。
他のキャストもスタッフも面白がって笑っている。
あたしはひとりボロボロに泣いていた。
溶けていくアイラインとマスカラが黒い涙に変わる。
「すみません!」
何度も頭を下げるジュンを店の外へ引きずり出す店長。
「やめて」
あたしのとても小さな叫びは、届かずに。
終わった。
もうなにもかもが、終わった。
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