あたしはリタリンの依存から抜け出せないでいる。
現実から目を逸らすように体内へと吸収していくだけ。
止まらない幻覚、幻聴。
あたしは抜け殻のような部屋のドアの鍵を開け、部屋に入ろうとする度に被害妄想にも襲われるようになった。
「警察がお前のこと目付けてるよ」
「この部屋には殺人鬼がいるんだ。入るな」
「お前が完全に壊れるまでのカウントダウンが始まったよ」
ああ、また幻聴があたしの頭の中を掻き乱す。
あたしはネットで仕入れた注射器で、溶かしたリタリンを左腕に注射するようになった。
スニッフよりも更に即効性があるからだ。
流れ星はいつの間にか大量の虫に変わった。
床にはムカデが這いつくばり、カーテンにはびっしりと小さな蜘蛛がこびり付いている。
あたしは金切り声を上げた。
「もうイヤだ」
ガタガタと震えが止まらずムカデだらけの床に倒れ込み、涎を垂れ流し泣いた。
そして、左腕にありったけのリタリンを注射して再び倒れこむ。
部屋の窓から見えた満月は、とても美しく、あたしを包み込んでいるように優しかった。
リタリンのストックが切れたあたしは薬ヤブの精神科へ駆け込んだ。
神様のようだった医師からあたしに下された罰。
「リタリンは新しく法律で決められてね、あなたにはもう処方することが出来ないんですよ」
「なんで?あたし死ぬかもしれないんだよ」
「あなたにはリタリンは必要ないんです」
「助けてよ。ねえ、先生!」
「転院を視野に入れてみてはどうですか?」
リタリンが貰えない。
怖い怖い怖い怖い怖いよ。
あたし、死んじゃうかもしれない。
リタリンからも、精神科からも、拒絶されてしまった。
「あたしが死ねばイイんでしょ?」
たった一言医師に告げ、あたしは精神科を後にした。
その日からあたしは仕事に行けなくなった。
誰のせいでもない。
ただ、心から疲れた。
リタリンが切れて、何日何週間何ヶ月が経ったんだろうか。
あたしの脳内は止まったままでいる。
ただひたすら冷めたベッドで、幻覚と幻聴、被害妄想に襲われ震えている。
ピンク色だった部屋は、今、電気さえ灯せずに深夜2:00のようなおぞましい暗闇と化している。
「ねえ、いつ死ぬの?」
「もうすぐ死ぬから待っててよ」
ベッドの中であたしは廃人のように呟いた。
既にあたしの意識に幻聴というカテゴリーはなく、まるでそこに人間が存在しているような感覚を覚えている。
あたしを憎む、もうひとりのあたし。
本当に、壊れてしまった。
店を休んでいる間、店長から何度も連絡があった。
「お店回らないよ」
「もっとバック付けるから、おいでよ」
「指名のお客さん待ってるよ」
パネルだけ残された不在のナンバーワンがフェードアウトしてしまいそうなんだ。
引き止めるのは当然のことなんだろう。
あたしは、店から、客から、必要とされているんだ。
生きているという証拠を、意味を、求められることで、与えられる。
リタリンが切られてたった一週間しか経っていなかった。
あたしは再びヘルス嬢に戻った。
汚い男の性欲処理道具でイイ。
こんな身体は既に汚いんだよ。
墜ちるところまで墜ちてやろうじゃないか。
どうせあと数ヶ月後には、あたしは容疑者になる。
レンちゃんを殺した罪で。
あたしは週6のオープンラストで復帰した。
ナンバーワンは未だ守られている。
ただ、心も壊れた人形のように無になり、腰を振りながら喘ぐだけのナンバーワン。
感じてなんかいない。
演技だよ。
濡れてなんかいない。
潤滑ゼリー詰め込んで来たんだよ。
どんな想いを抱いて裸になるか、客にはちっともわからない。
理解したところで、風俗は商売だから、まるで意味がない。
愛も金もあたしにはよくわからない。
ただ、すべて性に結び付くモノだと、それだけははっきりと言える。
あたしは45分¥12000を貰い、いやらしく作られたマニュアル通りの擬似恋愛を売る。
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