とはいえ、昨年の暮れにはユミカとユミを取っ替えたばかりだったのだから、もうこのまま一生、こんどこそと思っていたはずだったのだけれど、けっきょくユミとユウコを入れ替えた。ばつ3が名刺代わりになるとでも思っているの、結婚するならそんな簡単に離婚するなよ、なんて、一々苛々していたあのころの俺がなつかしい。
声優のはずが毎日が撮影、撮影、ライブのあのこ、白に染まるまで何度もブリーチした髪色を保つため、服は自前で用意するため、投資は収入を簡単に上回るため、だからカラオケでアルバイト。ツイッターで自らつくったパブリックイメージに苦しめられながら、好きになってしまったファンのことを思う。
夜行バスのなかスマホでツムツムしてるあのこはバンギャで、もう片方の手で髪色とお揃いのピンクのカラコンを瞳にいれる。僕も知っているあのバンドのボーカルに片思い、身体の関係はあるけれどずっと片思い。
あのこの金髪ショートカットは似合っていて彼氏にも好評で一途なふりをしているけれど、その場の雰囲気でキスまでならおっけー、そんなこと、誰にも言ってないけれど、知ってる。だってわたしはあの日見ていたのだから。
緑に染め上げた髪。あいつを知って男って美しいのだって思った。細い身体、そしてその大きな瞳で、女を憎んでる。
蝉の死骸が転がる頃に旦那と別れた黒髪のあのこは職場ですでに新しい恋人をつくっている。「遅れてやってきた性春」、彼氏からのLINEであればどんな内容だっていまは幸せ。良かったよね、こどもがいなくて。そう言いながらまだ若い彼女の離婚を若い男たちは結婚以上に祝う。
まずあるのは自分の感情で、そのときにどう感じるかが絶対で、それに基づいて行動して、その結果ならどんなに悪いことをするはめになってもかまわなかった。
そうやって生きてきたはずだったのだけれど、いつのまにか誰もぼくの素性をしらない、知っている人間はだれもいないそんな場所へと流れ着いた。
過去を掘り返されることもなく穏やかに生活できるという考えは甘くて、そうであるほどに自分のことがわからなくなっていく。
すべてのものごとが同じていどの価値でしかない。
一々、なにがたいせつか、なにがいらないものか、教えてもらわないとわからない。
おれみたいなひとが多いから、どこが泣きどころなのかわかりやすく書かないと本は売れないのだって。みんなそんなにばかじゃないよ、と思っていたけれど、うん、ばかではないのだけれど、みんな思っているより弱いから、同じ場所にひとりでずっと立ち尽くすことなんてほとんどできないのだから時代に許される気がしないのだから、わたしたちは他人に優しくあるべきなのだから、だから、仕方ないことなのかもしれない。
*
国道を走る車を眺めていた。
炎天下のなか歩く。
浴衣を着付けたのは何年ぶりだろう。
下駄のせいで足が痛い。
もう少しで帰れるからと言い聞かせて歩いた。
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