海へゆこうなどと、二度と言うまい。
あの時の若い自分は、初めて彼女が出来たことに有頂天になっていた。彼女との旅行といえば、どこへゆくのが良いだろう。旅行会社の前を通り過ぎれば、パンフレットには海外旅行が激安価格で陳列されている。英語もまともに話せない男、成田離婚という言葉もある。迂闊に飛び出すには勇気もいる。海外旅行の敷居はそれなりに高い。彼女とは付き合い仕立てで、それなりにリッチな給料も稼げたし、国内旅行でも裕福な旅行なら一緒に行ってくれるだろうか?
旅行は夏季休暇で決まりだ。
あの時の僕は、若い下心を携えて、彼女を独り占めする時間を、一緒に居られる時間を、何よりも欲していた。
ある日のデートで、旅行へゆく話をして、どこへゆこうかで話し合いに決着がつかないまま、旅行会社の扉を開いた。
最初に旅行の話を切り出したのは彼女の方からだった。どうやら行きたい場所があるらしい。初めて付き合って、最初の夏季休暇、お互いの時間も、お互いのお金も、それなりにゆとりがある二人。長い夏季休暇で旅行へゆかない選択肢は存在していなかった。
後は、どこへゆけば良いのか?それだけが二人にとっての課題だった。裕福になったとは言え、海外旅行という気分にはならなかった、彼女の方は興味がありそうだったけど、パスポート持ってないし、英語喋れないし、なんだかんだ理由をつけて、海外旅行を諦めさせながら、旅行会社の扉を開く。
「どうぞこちらへ」
旅行会社の店員さんは、入店した二人を早速、席に招いた。暇だったのだろう。店には誰も居ない。傍目から見てもカップルの僕たちは、店員さんにとって良いカモなのだろうか?目を輝かせて導かれた席に二人でちょこんと腰を下ろした。
「まだ、なにも決まっていないんです。」
僕は第一声、そう言った。ここで決めるつもりもなかった。旅行に行くという気分もどこかへ遠のいて行きそうだった。
「大丈夫ですよ。どんなご旅行をお望みですか?国内が良いですか?海外が良いですか?お予算はどのくらいを予定してますか?」
完全にガッツリホールドし始めた。これに答えて良いものだろうか?しかし、彼女の目は、旅行モードに入っていたため、スラスラと店員さんの導かれるままに従って答えてゆく。
「それでは、こちらのパンフレットなんていかがでしょう」
僕のお願いも叶えてくれて、海外旅行の選択はなくなっていたため、国内旅行用パンフレットがずらずらと並ぶ。
僕の目を引くワードがあれよあれよと卑猥な妄想を膨らませていく。室内露天風呂付き温泉旅館。山派?海派?どちらが好きか?夏といえば、海でしょ?夏といえば、水着でしょ?鼻息を荒くして、パンフレットを凝視する。
プールもいいな。海の近くのプールもいい。水族館とかデート旅行の王道だろう。旅行会社の店員さんの話をしている彼女の横顔を見つめて、上から下まで舐めるように彼女の体を見つめる。
「バカッ!どこ見てんのよ!」
彼女に目隠しをされ、パンフレットをちゃんと見るように促される。
妄想しただけで鼻血が出そうになるのをグッとこらえて、パンフレットへ目を向ける。
行くなら車で行くとして、時間的に一時間半以内で行けて、もちろん室内露天風呂付き温泉以外の選択肢はなくて、水族館とかめっちゃ近くて、それでそれで予算的にはこんぐらい?
おぉ、なんかだいぶ絞れてきたね。この近くにはプールもあるって。いいね。そこ。
じゃ、そこにしようか?
身構えていた心は、簡単に下心に擽られるように剥奪され、呆気なく旅行会社の提案する温泉旅館に決定していた。
恐るべし営業力。
★☆★☆★☆★☆時は過ぎ★☆★☆★☆★☆
旅行日当日。
あいにくの雨模様。サラサラとした雨が世界を包んでいた。僕は雨男だ。総自認するようになったのは、彼女と別れて幾年が過ぎてからのことである。
何日も前から計画して、旅行へ行く準備もして、あれを持ってゆこう。これを持ってゆこう。旅行先の地図を広げては、ここへ行ってみたいね。この道を通っていこうか。あの道を通っていこうか。あの頃の車にはカーナビゲーションがついていなかった。悲劇は、すでに始まっていた。
僕は、方向音痴だった。地図を広げて、この道を曲がればいいよね。この時間にここまでゆこう。そういう計画を立てていたドライブ旅行は、初日から計画が狂ったスタートだった。
それだけでも最悪なスタートの中、外は雨が降っている。車での移動じゃなかったら、もっと大変だったのだろう。雨の中のドライブデートは、迷いながらも目的地へ到着する。途中、海へ向かっているはずが、ものすごい山の中に迷い込んだり、行く先々で夏のイベントを開催しているはずが雨で中止になっていたり、兎にも角にも温泉旅館へ到着した。
旅行は2泊3日。
チェックインの予定時間にギリギリ間に合い、二人が宿泊する部屋へと案内される。海が近くにあるため、潮風に運ばれた海の香りが来る途中から車の中に入ってくると、いよいよ目的地に到着するという気持ちで、二人の旅行話も高揚感が増していた。部屋に入ると波の音が心地よく聞こえてくる。
ざぁ~ざぁ~
押しては返してゆく潮の満ち引きを聞きながら、夕飯前に初めて訪れた部屋を隅々までチェックした。何かを探しているのでもなく、どこに何が置かれていて、どこに部屋付き露天風呂があるのかを見つけようと、バタバタと扉を開けては締めた。
部屋付き露天風呂を見つけると……さっそく入る?と彼女を手招きした。掛け捨ての部屋付き露天風呂のお湯は常に流れて、チロチロと音を立てている。外では波の音がざぁ~ざぁ~と、少し荒れた海の音が鳴り響き、部屋では露天風呂の掛け捨てのお湯がチロチロと音を立て、雨が浴槽に波紋を広げている。
僕はさっそく、裸になって、ざぶぅ~んと露天風呂に肩まで浸かった。ここへ来るまでの間、車を運転しながらも妄想して、彼女の太ももを触ったり、触られたり、イチャイチャしながら来ていたため、パンツには大きなシミがネットリとついていて、陰毛にもタラリとヌメヌメしたものがまとわりついていたが、僕は構わず大きくなっている竿をそのままに、湯船の中に飛び込んで、ヌメリを温泉の中に浸した。
竿についたヌメリを洗い落とすように、亀頭を擦れば擦るほどプルプルと震えて、ますますヌメリが出てくるだけで、下腹部にガチガチに硬くなった赤い頭を冷静に元通りにするには、時間が解決するような問題でもなかった。
しばらく待っていると、タオルに包まった彼女も露天風呂へ入ってきた。
「潜水艦♪」
そう言って、僕は徐ろに腰を浮かせて、竿を水面から突き出した。
彼女はその場で大爆笑して座り込み「なにそれ♪カワイイ♪」とか言ってくれた。散々、笑い転げた後、潜水艦の潜望鏡を愛おしげに見つめて、ゆっくりと彼女の口へ運ばれていった。
僕はすでにはち切れんばかりの状態で我慢していたため、呆気なく第一線を終えた。彼女を後ろから抱きしめるようにして二人で座り、背中に竿を押し付けて、彼女の首筋にキスをした後、唇を奪う。乳房を弄り、内腿をなぞり、下腹部の方へ手を滑り込ませると、すでに熱くなって濡れている突起物を弄んだ。
今日の雨の荒波が、彼女の喘ぎ声を掻き消してくれる。露天風呂に降るサラサラとした雨の中、二人のボディタッチと挿入は夕食間際まで続いた。
旅行日二日目。
あいにくの雨のち曇りところにより雨。
朝食の時間に唸るように目を覚まし、昨夜の至福の時間を思い出しながらニヤついて、朝の露天風呂で身を清めていると、朝食の準備をし始め、気持ちの良い朝風呂の後、海の幸をたらふく頂いた。昨夜の夕飯も、朝食も、豪華な海の幸だった。
今日の予定は、海へゆく。
あいにくの天気だけれども、それが二人で決めた予定だった。
水族館は、旅館のチェックアウトの後、帰り道に寄りがてら行く。それもとても楽しみだ。
海に入った後、ベタベタな体のまま、帰り道というのもなんだか嫌だったから、海に行った後、二人で温泉に入ろうという話になっていた。
温泉旅館の目の前に海があり、まるでプライベートビーチかのように、人もまばらで、旅館から水着を着たまま海に行ける。ここは本当に僕たちの為にあるかのような露天風呂付き温泉旅館だと思わずにはいられない。
ここ最近の雨で、波が多少高いような気がするが、僕たちはこの旅行を楽しみにしてここまで来たので、今更海へ行かないという選択肢は存在しなかった。二人は早速水着に着替えた。彼女のビキニ姿を舐めるように見つめながら、海へゆく支度を始める。浮き輪に空気を入れ、ビーチボールに空気を入れ、紐の部分を捕まえて肩に担ぐ。レジャーシートを脇に挟んで、旅館を出るまでの間、何度も「まだ?まだ?」と言われてはベタベタとくっついてイチャイチャしていたもんだから、それだけで時間はだいぶ過ぎていった。彼女のビキニブラをズラしたり脱がしたりして、敏感な部分を弄ったりして、下腹部の割れ目に指を滑らせたりしていると、すでに熱くなってヌメっていた。俺の下腹部もパンパンに膨れ上がって、先っぽから濡れてシメっているのがわかるほど色づいていて、海へゆく支度はいっこうに進まない。結局、何度も水着を着たり脱いだりして何戦かして、足腰が馬鹿になりそうな状態で、海へゆく支度を終えて、濡れた水着の上にTシャツ短パンを着て、海へと向かった。
僕は、荷物を抱えたまま、先に走り出した彼女の後ろを追いかけるように、海に到着し、レジャーシートを敷いた。雨風の中、レジャーシートが何度もめくり上がるので、近くにある手頃な重たそうな石を拾い集め、レジャーシートの四つ角に置く。ビーチボールも転がらないように石で固定し、あたりを見回した。
先に駆け出して行った彼女を、周りを見渡して探して見たけれど、あるのは彼女が脱ぎ捨てたTシャツと短パンのみだった……。
Fujiki 投稿者 | 2021-07-21 21:59
フィクションにせよ、実体験に基づくものにせよ、自慢話を読まされるのには閉口する。タイトルが十分に活かされていないし、取ってつけたような結末にも特に必然性を感じられなかった。
古祭玲 投稿者 | 2021-07-22 16:26
少し句読点が多いかな、なんて。生意気ながら思いました。
これが主人公の妄想だったら、とても面白いですね。
主人公楽しそうだなあ、と思いながら読ませていただきました。
大猫 投稿者 | 2021-07-22 17:37
出だしがとてもよかったので、ワクワクしながら読み進めたのですが、何が起こったのかよく分かりませんでした。彼女が海に溺れたということ?
旅行の描写は楽しそうですね。専用露天風呂有のプライベートビーチ付温泉宿に、いつか絶対泊まってやるんだと決意しました。
諏訪靖彦 投稿者 | 2021-07-22 22:33
自分語りで申し訳ないのですが、その昔彼女と二人で入れる個室露天風呂温泉に入って隣の浴室とは木の策だけで隔たれていて、老年の夫婦が仲良く景色の話をしているのが聞こえて、僕たちもこうなればいいなと思った彼女とは半年後に別れのを思い出しました。
古戯都十全 投稿者 | 2021-07-22 23:45
運転しながら夢精するというなかなかの離れ業をする主人公は、今合評会の珍プレー大賞候補でしょう。
海はあくまで舞台であり、タイトルは主人公が二度とひとり相撲はしまい、と決意したことの表れかと思いました。
鈴木沢雉 投稿者 | 2021-07-23 02:53
悲劇は、すでに始まっていた。で、どんな酷い旅行になるのかと思いましたが案外普通の(というかこれは成功の部類では?)旅行でした。まあ雨は気勢を削がれるだろうなあと思います。
曾根崎十三 投稿者 | 2021-07-23 09:49
ラストは彼女が波に浚われて死んだということですか? それとも彼女の存在自体僕の妄想だったとか?
まさかレジャーシートに置いている石が彼女の死体だったとか?
等、突飛な空想が広がりました。恐らくそこがタイトルに繋がる大事な部分だと思うので……。
千本松由季 投稿者 | 2021-07-23 10:07
穏やかに始まって、ずっと穏やかであったのが、露天風呂に入るところから、一気にエッチになっていって、そこから突然個性的な文章になっていくのが面白かったです。セックスシーンがこれだけ書けるのだから、他の部分も、もっともっと個性的になれる可能性が大だな、と思いました。一度、最初から最後までセックスという作品を書いて、自分の得意な文章を発見してみては、と思います。「サラサラとした雨が世界を包んでいた」という表現が好きでした。ともかく、女性の知らない男の側のあれの事情がよく分かったので、それは天才的だな、という感じです。
わく 投稿者 | 2021-07-23 12:27
男性らしい思いを楽しく読みました。私は宇治拾遺物語が好きで、現代の小説にも、あの大衆性と猥雑さを甦らせることができないものかと妄想します。作者の方向性とはもしかしたら違うのかもしれませんが、更になにかエロいハプニングが起きてくるといいかもなあと思いました。
ヨゴロウザ 投稿者 | 2021-07-23 21:22
はじめまして。
リードに「トラウマ」とあり、タイトルと同じ書きだしで始まるので、なんらかの破局が待ち受けているものと思って読みましたが、最後まで破局が訪れず困惑してしまいました。他の方々のコメントにもありますが結末が一体どうなっているのかわかりません。未完の作品のようにお見受けします。
小林TKG 投稿者 | 2021-07-25 03:37
あいにくの雨のち曇りところにより雨の所で、なんかミスチルを思い出して、雨のち晴れの影響かなと思いますけども。聞きながら読みました。で、最後まで読んで全部幻覚か?彼女の存在自体からか?とか思いました。驚きました。突然取り上げられたみたいでした。
春風亭どれみ 投稿者 | 2021-07-26 15:29
「プール付きのマンション、サイコーの女とベッドでドンペリニヨン」をもっと、猥雑に、隠そうともしないピーピングトム精神を露わにしたかのような文章。いいと思います。今日日、フィクションに素直に下劣を認められる勇気がある人は稀少になりつつありますゆえ。
諏訪真 投稿者 | 2021-07-26 18:07
ラストについて解釈が分かれるのかなと。
悲劇の予兆とも、あるいは唐突に捨てられたとも。
Juan.B 編集者 | 2021-07-26 19:25
彼女がどうなったのか気になる所だが、どうなったところでこの主人公の爆走っぷりは収まりそうにない。頑張れ。
波野發作 投稿者 | 2021-07-26 20:13
風呂でやったり青姦すると、後で別れ際に「あの時は本当は嫌だった」とかなじられることが多いので、控えた方がいい