メニュー

九篇風変─初雪

九篇風変(第1話)

萩原蔵王

小説

576文字

「なあ御前おまえ、”みょうごにち”って、一体何だ?」

御前様おまえさん莫迦ばかね。”みょうごにち”じゃなくって、明後日あさってって読むのよ」

「へえ、”あさって”か。ふぅん成程なるほど

良人おっとえんに坐して新聞を読む。その新聞の一番大きな見出に「明後日より上越じょうえつは豪雪か」と在り。妻君さいくん、少しばかり開いたふすま越しに裁縫しごとをする。良人のといに呆れたように見えるわけは、深く大きな溜息のため。縁に居坐る良人、ふと顔を上げれば、眼前に雪でゆるんだ松の枝、冬椿、霜柱。妻君裁縫をめて縁に出れり。

いやだわ、こんなに積っちゃって」またしても溜息一つ。されど訣は違えり。良人、新聞を閉じて、

「己がやろう。どれ、ほうきはどこだったか──」

良人、立ち上がって廻廊かいろうを渡りくらより一本の箒を担いで出る。かくて庭に出、真っ白い息を吐いて雪を搔くのは酷く侘しいもの。良人、少々うなって、

「たった一本の箒でこれだけの雪を搔くのはちと酷だな──そうだ、おい、はく、狛」

途端に雪にも敗けをとらぬような一疋の白いいぬおどり出る。狗、舌をも出さず。

「狛、好いか? 今からこの庭に在る雪を、全部吸い込んで了うんだ。いいな? 全部だぞ。それ、そうれ」

狗、構えて一囘いっかい、大きく息を吸えば、たちまちの内に庭の雪、颯爽さっそうと消え去れり。

「好いぞ狛。難有ありがたい難有い。よし、もう行って好いぞ」

狗、良人の云う通り、降る淡雪にじって何処かへ消えれり。残るは少々の、白磁はくじの色の狗らしき毛の塊。

© 2026 萩原蔵王 ( 2026年2月5日公開

作品集『九篇風変』最新話 (全1話)

読み終えたらレビューしてください

みんなの評価

0.0点(0件の評価)

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

  0
  0
  0
  0
  0
ログインするとレビュー感想をつけられるようになります。 ログインする

著者

この作者の他の作品

「九篇風変─初雪」をリストに追加

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 あなたのアンソロジーとして共有したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

"九篇風変─初雪"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る