何を考えてあなたは走りますか、わたしはあなたをもとめてずっと走っています。
長い手紙の体裁をとった小説です。認知症の診断を受けた男が、喪われた最愛の人に向けて、可能なうちに自分の記憶を書き残しておこう、と試みる話。
聞くというのは、相手の声をうなずきの形に変えて、自分の体に通すことだ。 通したものは、簡単には抜けていかない。 だからわたしの一日は、いつも、誰かの昨日の声から始まる。
抽斗をひらくと、樟脳の匂いと、ちりめんの皺と、ほどけかけた花。祖母が手縫いしたお手玉が、五つ眠っている。ふる、と鳴る音。中身を、わたしは知らない。本作は、形見をめぐる追悼の詩でありながら、同時に…
寂れた文学界に一筋の光。衝撃の直木賞受賞から半年、真実の愛が語られる。「オレハテッペンとったよ、父さん。」
画像のなかで、春は死なないふりをしている。 ピントの外、ぼけたままの輪郭で、 あなたはまだ、解けつづけている。 ──レタッチする指は、弔う指でもある。 礼儀正しく削られてゆく死者たちの、…
失恋した夜、感情を事務にしてしまえば耐えられると思って、マニュアルを書いた。けれど、条文のほうが先に壊れた。「愛、していた」と打とうとした指が、勝手に「愛、している」と変換してしまう。訂正しても…
夜勤明けの介護施設、誰にも悼まれずに逝く老人と、明け星。希望の星はいつから、労働者を打刻する装置になったのか。ケア労働の制度的暴力を、像のみで彫る四十行の哀歌。
春風は嚔をした。 還り埃に塗れ燃ゆ。幻想掌編。
ある日、ホテルは閉まる。閉まったホテルから、人は、それぞれの場所へ、退室していく。それぞれの場所、というのは、家のことではないかもしれない。家でも職場でもない、もうひとつの、誰にも見られない、二…
四〇七号室には、誰のものでもないノートがあった。ノートは、書かれた日からずっと、誰かに読まれる日を、しずかに待っていた。千尋がそれを開いた夜、待っていたのは、ノートのほうではなかったのかもしれな…
ハンカチをわざと忘れていく男がいる。左耳のピアスばかり落としていく女がいる。兄のシャツを置いて帰ると決めた男がいる。何ひとつ置いていかないと決めた少女がいる。彼らに名前がつきはじめたとき、千尋は…
この作品は昔書いた作品です
ああああああああああああああああああああああああああ
看板の「パ」だけが消え、夜になると「ライソ」とだけ光るホテル・パライソ。そこに通う人々は、必ずしも恋人同士ではなかった。昼間に一人で来て眠る男、老母を連れてくる中年女、部屋でケーキだけ食べて帰る…
百合小説です。特に注目してもらいたいのは、主人公のこころの移り変わりです。
ひとりに慣れすぎて一枚の紙になった 川にも海にも井戸にもなれず 下水をゆるやかに流れていく それでも 畳の埃と混ざった繊維のかけらが 誰にも汲まれずに光っている ──〈なりそこね…
「行ってらっしゃい!」
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