「・」

森水

小説

1,066文字

    拝啓 朝晩はめ.きり寒くな.て参りました。お元気でお過ごしでし.うか。

    さて、突然の手紙を失礼します。というのも、これは少し急用でございまして、なんと言いますか、近頃目の調子がおかしくな.てしま.たのです。どんなふうに、かと問われると、今これを書いている最中にも気にな.て仕方がないのですが、「.」や「.」と言ったような、所謂、促音と拗音が最近、あまりにも小さく見えるのです。まあ、元々促音だとか拗音だとかは小さく書かれるもの、だということは勿論承知しているのですが、どれだけ小さく見えるのか、というのがなんと、黒いゴマ粒が一つあるかのような小ささなのです。ありえないでし.う。それに、これがもし悪化するものであ.たなら、いつかは見えなくな.てしまうんじ.ないかとすら考えることもあり、常日頃不安を感じているのです。よ.て今回手紙を寄こしたのは、眼科医であり専門家でもある貴方に、知り合いという伝手を通して、何か助言を頂けないかと考えた次第なのです。それと、詳しい状況や経緯を書き忘れていたのでそれも付け加えまし.う。まず、いつから小さく見えるようにな.てしま.たか、ですが、ま.たく前兆のようなものは無くて、本当に五日ほど前の朝に目覚めると、そうな.ていたのです。この時私は、何か目を悪くするようなことをしてしま.ていたんじ.ないか、といろいろ探.てはみましたが、これとい.て心当たりはありませんでした。前に少々暗くな.た部屋で、本を長時間にわた.て読んでいたことはあ.たのですが、そもそも促音や拗音が小さくみえること以外は、何も変わらず見えているので、単なる視力低下とは関係が無いんじ.ないかと思います。あと、小さい点もそのまま小さい点に見えていますよ。ですので、ここからはただの推測、というより妄想程度の考えにはな.てしまいますが、何となく、私の中にある「促音も拗音も小さいものである」という認識が、何かの拍子に異次元の尺度で誇張されてしま.たのではないか、という感覚がするのです。もはや、元からそれらはこれだけ小さい物だったんじ.ないか、とすら感じることもあ.たので、これは恐ろしい状況だと感じました。

 

    と、お伝えできることはこれだけになります。重ねて、お忙しいことは承知していますが、余裕がある時期にでも構いませんのでどうか、これらの原因について調査をしていただけませんでし.うか。また昨今は季節の変わり目でもございますので、体調の方もお気を付けください。

敬具

平成三年十一月五日

矢部鈴子

ア.シ.ベリー谷口ジ.ネ.サ様

2024年10月31日公開

© 2024 森水

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