錠剤を飲む度に世界に庭が咲いた。肉を捻り、形を変えないと見分けがつかなくなるから世界には傷が満ちていく。崖下に散らばった肉片は花火に似て、喧騒は祭りだった。空港発のシャトルバスは渋滞に呑まれてほんの少しずつしか進まず、スローになる視界に映る景色が走馬灯めいて、それを病室の窓から眺める自我がこれから演算されていく。自生する似姿はどれもいつかと同じ憧憬だった。
懐かしい友達に会いに行こう。そう思ったのは昔のことで、けれど思い出す度に忘れている僕は手先すら不器用だった。どうせなら昔のアバター使うか。ろくに課金もしてなかったからダサすぎて笑う。何年も立ち入ってない世界だからオブジェクトは粗雑で、数も少なくて一瞬で全体を読み込んだ。はずだった。
指定のワールドは存在しません。
どうして?
##ver1.8.73##/#7月29日%=3時間4分12秒前#……$* ワールド名が存在しません。登録してください>新規作成/ログインする //ロードします#……>ロードが完了しました>ワールド名を決定します。「Astral Projection」を作成しました>世界を生成します。>お疲れ様でした //
自動で生成されたワールドに降り立つ。灰色の世界。つまんないグラフィック設定で固定されていて、それなのに処理が重たい。遠くに自分と同じアバターがいくつも見える。きっと大量の鏡を置いていて、それでも処理落ちしないように無理やり他の設定をいじっている。子供が作ったか、悪い冗談みたいな場所。こんなの残してたら容量食って仕方ない。削除して、新しいとこでやり直すか。って言ってまた消し忘れる。
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初めて自分の兄のことを他人に話した。話は誰にもしないつもりだったけど。その日、僕はいつものように学校から家に帰る途中でふと思い立って、その日初めて兄が死んだ交差点に立ち止まった。信号待ちをしてるわけでも車が通りかかって邪魔だと言われてるのでもないけど何故かそこに立ったまま動かないことにした。周りの人間は全て死んでいたけど不思議と動いているような気がして、見失わずに追っていけるような安心があったように思う。やがて赤茶の錆に覆われた車の輪郭が崩れ、見憶えの無い女が歩いてきた。僕とその人の間には遮るもの一つも無い。まるで透明なカーテンで仕切られたみたいに距離感が希薄で、お互いの顔がよく判るほど間近になったとき突然に声を発した。その声は僕のものではなかった。ノイズを含んだ男の声色をしていたけど聞き間違えようもなかった、子供の頃の兄そっくりな声で喋ったからだ。
「そっち、道じゃなくて海に続くんだよ」
彼女は僕の横を通過していく。どうやって歩けるようになったなんて聞いてみなかった。返事をすることもなくあっさりすり抜けたことは、鮮明過ぎるくらい良く脳裏に留まって未だに解けていないパズルみたいな戸惑いとして決して自分でないものにすりかわらない事実となっている。
兄は僕が生まれる前に、母親の胎内で死んだ。僕の中に生きていたらしい彼は何年経ってもある日から急に遠くを見たり幻聴を作ったりし始めるけれど別に生きているんじゃない。僕はそれについては気にしないことしてるのを理解していて、ただ自分以外に見えない誰かの話だけはずっと出来ないと思っていた……そう考えてたとき後ろの女、それは誰だといきなり背中に投げられる問い。振り返ろうと首の角度を変えたそのとき肩口を掠んでナイフを振るってきた。死ぬことがこんなに軽いことになる世界なんて。みんな死にたい死にたい死にたいって言ってるし、冗談や喩えでもなかったらしい。そんなことを考えていたら切先が胸を突いて貫いた。倒れていく体にとって西日は下にあって、夕暮れは正面にあったから進行方向は正しかった。
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#20日13時間28分41秒前から存在が確認されなくなったキャラクターが検出されるようになりました。
ゲームで殺されてから現実世界で死人が見えるようになった。死体そのものは普通にしておく限り目に入り難いもので、あるきっかけがあってやっと気づくことができるのだけれど。気づいたことと言うとここでは死因に関係なく皆すぐに死んで行くということだった。事故死も事件も自殺もこの世からなくなることのない現象だと考えたがる人は少なくないから
「自分はもう長くないと思うほど体に痛みを覚えたりする」
「今さっき事故で車に乗って居なくなった人が気づかれもしなかった場所で何かをしているところ見たぞ」
とのことは噂話でどこでも聞くことができた。それでも実際どれが死ぬ瞬間まで動きを続けるものの残像で、どれが死んだ後も自律して彷徨う幽霊なのか違いは知らないままだった。しかしそもそも現実としてありはしない死の存在を信じる理由も何も無くて、今そこで死んでいる生き物は本当はどこかで生きているのかもしれないと考えるのは死という概念それ自体が幽霊になって取り憑いたような感覚がある。
あるきっかけで見たものであればいつでも知覚してみる事も簡単だったみたいで、誰も気づかなければそのまま死んで行くし、違和感を見つけて調べにくる霊の手助けになることをたまにするが、いつも何かの役に立つばかりということも無さそうに思えた。自分が生まれるずっと前には大勢人がそれを見ていることがあったらしくて、幽霊というのは誰を中心にして生じているものでもよいんだ、そのことを知ってる人はめったにいないのだといった話を聞いた、母より5段階くらいは優しい別の女だったが名前はたぶん思い出せないままだったのが別に気まずいということもなかった。
ナギも田崎も度々僕の家に遊びに来るのだけれど、僕が死んでいるのか2人が死んでいるのかは未だに分からなくて、そのことを確かめないことが僕たちの中のルールになっていた。誰が死んでいたって、とりあえず月に何度か集まって飯にでも行けることに比べたら大事なことではなかった。またお互いを捕まえることができたんだと言い合って、3人いつもの談笑に夢中になれた。
久しぶりに会ったナギと田崎はどちらも元気だったが相変わらず2人ともにこついていなかった。しかし、ナギの方はこのごろよく話すようになったらしい。トラッキングのデバイスが上等だから細かな表情変化もよく分かるようになっていて、表情なんて出さなくて良いのにと言っていた頃が懐かしかった。田崎の手中には今となっては非推奨の扱いとされるデータ抽出のための旧態型デバイスが存在していて、かつて僕等が日常的に使っていたのとは違って複雑な構成を有するためアップデート後もしばらくは使い回されていたという。これはこの辺りに住んでいるほとんどの人が昔は所持していて、まだ使えるものがあるらしくて時々探しているがうまくいったケースはあまりない。ただし、今回のものは状態が良いものでもせいぜい20年前程度のものだったから十分期待が出来そうだった。田崎の実家の倉庫に置いていた母親の端末の内の一つで、そこに昔のデータが残ったままになっているらしかった。
三人で夜通し探索して、ようやく目当てのアドレスが見つかった。期限切れで凍結されたワールドの復元は当然違反だったけれど、そこが思い出の場所だったからみんな覚悟はできていた。復元された空間へのロードを待つだけになっても怖くて動けず部屋の扉も閉められないままだった。
読み込みが終わった瞬間、突然目の前に膨大なチャットログが展開した。まだ自然言語を手動で出力して話し合っていた頃。それがそのままで残っていて、しかも古い順に遡って表示されているともう我慢できなかった。3人とも腹を抱えて笑い合ったり、恥ずかしさに悲鳴を上げるみたいに叫んだ。見ているだけで関係ない物事も次々と思い出されて、その間も風景ごと動き続けてる錯覚を覚えるくらいに激しい入力数を伴って言葉が現れる光景はもはや異境で、目の前に大量のスクリーンが現れてたのかと思うほど視界が圧壊してる。メッセージの流れはまだ留まらなかったが同時に自分の中に根を広げるイメージがあったから僕はデバイスからの切断をいつまでも先送りにした。3人一緒だったし本当に懐かしかった。それに空間を舞う語群がこんなに綺麗だったんだということが分かった事が思いがけない幸福で、それはログの海の中でだけ起こる奇跡みたいなものだった。
朝日に目を開けずずっと眠ったままで、ようやく少しだけ周りに目をやる決心を固め顔を撫でてやっと立ち上がるみたいに部屋を抜け出したとき足元を見ていた。よく整地はしていたんだとその程度の気持ちで窓に映った白い雲を眺めながら、廊下を踏み分けてどこかに向かったら風呂場に向かう途中だと気づいた。一度足を止めて髪をほぐした後に、ほぐれた髪を伝って頭頂部から僕が枝分かれしていきそうになるのを繋ぎ止める。もう生きていやしなくなっているのだけど頭が今それを知るわけもない。髪は生来から備わっているのに加え水でシャンプーなり使うようになっていた流れもあってすぐに溶けて頭半分しかなかったが、自分は全部そこに収まっていて手の位置が違うとか頭部という集合の中にある全体の一部であるといった意識が呼び起こされて、それが空間に剥き出しになっていることが怖くなってくる。それを何度も思い描くことと別に、水を使いすぎた頭が湯を吸いにくくしてしまうことも厄介だったから、結局は顔をゆすぐ前に髪を捨てていることに変わらなかったのだが。ログが流れる風景の向こうからはかすかに洗濯機なのか台所洗剤かを洗う流れまでくる気配がしたので急いだ。何か見なくてはならないけど何も見えない何かが満ちていた。それが鏡だという事が徐々に自分の心に受け入れられ始めるけど、特に不都合も感じなかった。
4時頃起きるつもりでいたのはいつもと変わらないせいで、もう目が利いているのだったということはただの条件付けに過ぎなかったのだのだろうと思った。実際に昼だった時間は多くは無かったみたいだが大体は8時間を20分掛けて過ぎるものだという意見らしい考え方の中ではとても健全な日だと思っていたし、980日に3回、2750分が4時間の中に含まれていくだけということだった。ただ水に流れてしまい消えた時間の量は多い方だと判断した瞬間もあったがそれだけだ。時間は僕の頭の中に置かれた容器のように大きく揺れるから今までと違うのは明らかに何かがあったとしか言いようがないだろうけど大した混乱はない、僕にとって時間は生きているほど重要なものになっているはずだったということの裏返しに過ぎなかった。別に誰かが喋っているわけでもない朝のベッドのなかで夢を思い返すととても気持ち良かったように、頭の中から過去の窓から全く同様に出てくる時間たちは今も何も変わった様子はないらしい。しかしだといって昨夜のうちに全てが変わったのは確かだなと思うが、自分がどのような状態に置き換わりにされているか本当にはっきりと分からないでいる。
Astral Projectionというワールドは、広大な敷地を丸ごと一つの記憶情報で圧縮したようなもので空間の奥が深く複雑になっていて通常のプレイヤー達が訪れたきりなのは当然だった。それが一番最近の20ヶ月のうちに削除、ロックの両方法それぞれ複数を経て一度僕の所有していた時ですらもう15年に見た10人から今は0名に減っていたし、もちろん再開権限はすでに申請していたのだが来ることはなかった。オフラインで一人で遊んでたり、ローカルで別の知り合いを集めて時間ぎりぎりの間に見きれない広さを楽しんでいただけになった。一つの嘘というか誇張に近いような錯覚ではあるが実際は大きな惑星ほどの大きさである。ここで一番大きな部分はほとんど何も無いように見える未踏地域に該当されることになると思うが、それでもこの宇宙としてはあまりにも狭い環境なのにも拘らず今見ている地形やらシステム、建造物の数々はその端ぎりぎりしか形成しようがないほど奥に及んでいながら無限に続くと表現せざるを得なかったから実際には相当遠い場所に位置していることを僕は認識するべきなのだろうとその時思いついた。でもここにある限りどこへ行くことも出来なかった。あの山に行って景色を見たというのは単なる願望にすぎず、実はあの辺に見えるあの建物でこう言ったかもしれない、あの森に遊びに行く予定だったなんて話してても本当はどこにもいなかったのかもしれない。そもそもこれは記憶というものを元にしているゲームで、あるいは仮想ではあるのだが実体のない蜃気楼に似て、現実の世界の情報量を無視出来ないのだけれど。
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新しい家は前の家が解体されて以降も賃貸で続けていて結局ずっと契約を更新し続けたらしく(不動産関係の職業がこんなにいるとは最近まで思えなかったし今後もきっと知ることはなくなったという予想があってそうしてきた、つまりずっと仕事を続けていなければ今の自分には決してなっていない訳だったがそれに価値を持てるような経験もなかった)ようやく買い戻す算段を付けられたときには1日を何百倍もしていて、7800年ほど経過していたのではないかと思われたけれど、当然それほど正確性を伴うような話ではないようで実際の購入日の算出は不可能みたいだと判明して、そのせいで安心できるような状態ではなかった。確かに部屋に入った後もやはり落ち着けなかったからそれはずっと続くらしいということにも思い至らざるを得ない結果になったが、構わないことにしている間はそれなりに満足だったと言ってもいいはずだった。住み続ければそのうち慣れるものなのかもしれない。自分の住む領域だけははっきりしてほしくてドアの上に取り付ける事になっている温度計用の計測ボックスを手探ると壁に固定しようとした壁石にぶつかり、そこで音を立てながら少し移動し続ける気配だけが感じる事が出来たので目を離してしまったがその先、つまりキッチンには僕の荷物を置きに行ったときに何か小さなものがある感じでしばらく待とうと思ったのだ。やがて扉一枚の向こうからものを引き千切り始め何かをばら撒いてしまうかのような音が響くと、同時に足を踏み出せそうなことが不思議に思われているとすぐのタイミングでドアが開かれ僕よりもよっぽど驚いた、顔色の真っ青になっている人がそこに佇んでおりそれが僕の兄だとすぐに分かった。また死んで現れたのか。兄の口が大きく広がって何かの言葉を作りかけるところまでも一瞬見えたはずでそれが最後の出来事だった。おそらくだがそれと同じ事を言っているのだと確信したのは僕の頭が破裂し体の内部構造が剥き出しになって、眼球がどろっと流れ出す感覚に見舞われ視界が全て灰色に変わったからだ。そしてノイズが晴れていくと僕は病室にいて、自分の手足を確認しなおすと思い通りに動くようになっていたようだからそれで全てが終わることにしたい気分だった。ナギと田崎の見舞いの花が隣に飾られていて、彼らはどう見ても死にたてでこれから葬式に参加することになっていたようだったと思うから、せめて僕は普通に接してくれば良いだろうと思っていたのだ。僕が死んだところで彼らとの関係に何も変わるわけではないがとにかく同じ場所で起きようとしていた事は変わらないようなのだということを、死んだ状態で再び自覚しただけみたいなものだった。
それから2日後に僕は病室の窓から飛び降りた。### ##これまでを全部見ていた僕は#本当に死ねばよいと思っているんだけど死なれたら僕が存在していない事になる事に気付いたから#、ここに来て#君がどんなものになりつつあるかという事がだいたいわかってきて良かったと思っている最中になるのですが#そっちからは僕たちの意識が見えていたんだね#だけどこうして声まで掛けてきている訳なん%@々ss+b\\u4v、この意味はよく分からないのだからそれを分かってください><!-:3gwy・_o<a4)ihz&,>l.0’。=4;?
指定のワールドは存在しません。
指定したワールドは存在しないので次の手順に移ります。
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今日中に出来るだけの操作を終えないといけない。その通りだと思っているしそういう思考をしたつもりは確かにあったしだからこそここに留まっている筈だと考えることしか出来ず、だが僕が居なかった。僕達は昨日午前11時に待ち合わせをするまでは一度も約束をしなかったどころか会うことになろうとも思わなかったけれど、SNSきっかけで人と会うなんて初めてだし、それでいくのが花火大会なんて目眩がしてくる。浴衣を買っていたけれど家の中にあることは確認していなかった気がする……のは何故忘れたかという考察をするべきだと思うんだがこれだって僕の意見なんだろうか?誰か僕の発言を検証するために監視をしてくれてるんだろうか、そんなわけが無いと思ったのだが僕は何を考えてるかが分かりずらく他人と居る時は口を閉ざすことが大半だったので(しかも相手の機嫌が悪くてもそうすることしかしてこなかった)誰にとってもわかりにくい奴という扱いになってしまう訳だっただろうということは否定出来ないことで、今考えると当然なのだから今更取り乱さない限り、とそこまでも考えられない自分が不測の要素がある。とにかく11時までに僕が僕でいないといけなかった。
時間がなかった……というのは夢の中での時間なだけだと最近はっきりしたのでそのことについてのみ言及出来なくなってしまい(僕の時間感覚が狂っていた訳ではなくこれは本当に本題から逸してしまうことだった、悪い冗談にしては悪くなりきらなくて)もう無理かもと思っていたとき突然、あのまま死んでたのではないかしらと考えていた僕の前に彼が現れてくれたりして何とか予定を果たすことが出来た。花火が始まるまでにやることができただけで、何か大発見を達成したと言ってみてもいいほど僕的には特別な日だということになった。ナギさん、のりやさんと僕の3人で河川敷の屋台を回って、途中で焼きトウモロコシを落としてしまった彼を冗談で叱りつけるイベントのようなものを起こし(自分でもよく怒ることが出来ていそうな場面があった)その瞬間ごとがどれも輝いていた。初対面の人たちとここまで打ち解けられると思っていなくて、あっという間にひ花火の打ち上げの時間になった。3mはある空を見上げて花が次々と開く様を見るのはとても幸せな経験だった。#それは、あまりにも現実じみた色彩をしていた。夜の街より一段暗い青を背景に、金管楽器のような明るい音を出す炎が上がり始める景色を見ると自然とは程遠い色合いであるはずなのに胸を打って思わず息を漏らした。涙を流して、周りの人も似たような有様になっていたことが嬉しかった。#この時間がずっと続く、そうであって欲しかった。#記憶にないはずの気持ちが思い出されて、それがひどく暖かかったから思わず笑った。
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病室の窓から見える花火が、きっと僕の見る最後の花火大会だった。### あの人たちのことを考えようとすると、いつものことだけれど何も思い出せない。
そしてまた朝が来ると僕は自分の部屋で寝ているようなのだ。
投薬の影響で意識を失うのが早かったのか、それとも薬のせいにしてしまう方が簡単なほどに僕の頭はおかしくなってしまっているのか、どちらがどうということもないのだろうけれど僕は自分が自分であること、つまり田崎やナギさんのことを思い出した。あの人たちが本当に存在するのかなんてどうでも良い事として、とにかくあの人達が存在しているのだということ。それだけ分かれば十分だと考えたのだ。そしてそれを僕が認識出来ていることの方が重要だと。
僕 は、自分がこれから死ぬのだのだと理解していたしそのことについての恐怖感があったかどうかについて思い出す必要はなかった。なぜならそれはもう終わった事だからで、僕がこうしてまだ息をしている以上はもうそれは終わってしまっていたし、それを考える必要がないという方が正しい。ただ、僕の兄のことだけはずっと分からなかった。死ぬ前になって分かるようなことではないと思っていたが、兄が本当に僕の頭の中で生きているのかどうかというのと同じに考える必要があるような気がして仕方ないから。
あの後僕がどうしたのか、それは思い出すことが出来なかった。
でも死んだだろうと考えているしそれを確かめたくて仕方がないのだけれどまだここに存在していることが間違いなのかもしれないと思っていて、このまま僕は死んでしまえた方が僕の為にも皆の為にもずっと良いのではないか。そんな考えまで浮かんできていたが、そんなことは無いと信じたかったのですぐ信じる事にした。僕がこれからどうしたいのか、ということについても少しも解らなかったのだけれどもう何もかもに先送りしようと考えることにしたら少しだけ気が楽になった気がして、自分自身の肉体を好きなように使うことにした。### 今ならわかるけど、#君は僕の思考の全てを覗くことができる。
#
それで僕と対話をしようという気になってくれたということなのかもしれない。#
でも僕は君が何を言おうとしているのか理解できないし、#
君も僕の言っていることも全てはわからないと思う。#
それでも僕は自分の意思を伝えているつもりでいるし、#
それについてだけは嘘は言ってないと思う。#
僕は最後にゲームでもやっていたかった。幼い頃からやっていた懐かしいゲーム。
テレビ、コントローラー……
#それらのものを必死に手繰り寄せ、###
僕の部屋にあった古い時計、僕が小さい頃、とても大好きでよくお友達を連れて帰った時両親が笑い話にしている、そこに確かに僕のお兄ちゃんがいたから。ねえ、ゲームやろうって言ったらまたお兄ちゃん来てくれるかな。#、、、、、、## 君にはやらなければならない事があるし、それは僕も同じだからそれをしようと思う。#僕は君の記憶の整理について困っていないけれど、君は違うならばそうしよっか。#、、、、、、、、、、、、#、、、、、、、、、#君の書き込みがどうなっているのか確認できてちゃうから読んでるよ。#君は本当に何を見ているの? そして誰と喋っているの?
最後の夏について考えていた。とにかく夕暮れ時まで、あと一歩でも、いや、1m先に踏み出せれば、と思った、、、この、夏。もう秋?花火大会が終わって、帰る人の群れが街に広がっていく。お見舞いで貰った花を掴んで、病室の窓から外に思いっきり投げ上げた。きっといつかこの景色を思い出して、花火の一つに間違えてしまうんだと思った。
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