【 一章 Rolling, Electric, Connecting, System, 】
#1 発進
時は移り、3248年9月21日。木星。ついにRECSが発進する。人工惑星内には、さまざまな用途の施設が並び、さながらショッピングモールのようだ。
搭乗者は展望台で最初にアンドロメダ銀河の急接近を報告したドイツ人の子孫、クリストファー・ブルクハルト、RECS開発最高責任者アレックス・サンダース氏の血族アレクシス・ペレストレロの2人。奇数だと色事で無駄な争いが生まれるかもしれないし、数百年単位の航行を可能にしたクローン・システムを複数設置すると、RECSが止まりかねない。
ブルクハルトという者は、普段とても物静かな振る舞いなのにその日に限っては、妙にいらだっていた。
こんなにも、多くの人間とカメラに囲まれたのは、人生で初めてであるにろ、彼は必ず無事に帰ります。人類の繁栄を願います。この二言だけを残して、やじうまとマスコミを押しのけ、その一生を過ごすであろう、鉄の惑星の扉へ駆け込んだ。
対してペレストレロは、区々の記者にモデルや、歌手になることが夢だったと明かして、先陣を追うようにRECSへ入り込んだ。
ブルクハルトは艦内に入るとすぐに、Ship’s, Individual, Maneuver, System,略してSIMSを起動して自室へ向かった。
ブルクハルトはペレストレロの呼びかけを無視すると、ペレストレロはむきになって彼を追いかけ手を掴んだ。ペレストレロは彼にこれから長く過ごすことになるのだから、挨拶ぐらいしなさいと、忠言すると彼は手を振り払って、返答はそっとしておいてくれの一言だった。
ブルクハルトは自室前の電子パネルに磁気カードをかざして部屋に入り、すぐに背広を脱いで私服に着替え、デスクに向かった。そこであらためてRECSの仕組みに感動した。彼はこれを小型化できないかと奮って、バレーボール程度の模型を製作しはじめたのだ。
Rolling, Electric, Connecting, System,は、多層に重なったレールを滑走する振り子が、次の層の振り子を衝き、その反動で振り子を衝いた振り子は元の位置へと戻り、また衝かれた振り子も、次の層の振り子を衝き、もし回転が止まったとしても、発電した電力のほんの少しだけを使用して回転を促すのだ。
これは惑星サイズだからこそ実現されたのである。
ブルクハルトは、RECSの小型模型が実現するなど、みじんも思っていなかった。
彼はこの作業に熱中することだけを求めていたのだ。彼はデスクのモジュールから栄養ブロックを取り出し、フルーツソースをかけて食べだした。
そのころ、ペレストレロは非礼をとがめるために、ブルクハルトの部屋に侵入しようと試みていた。
14:27分から100近く入室許可申請を送っているのにもかかわらず、21:49分になっても応答がないのだ。仮にも惑星であるRECS内で、ストレスによる突然死が起こる可能性は考えにくいが、まだ引き返せる距離ではあるので、確認の必要があった。
許可が下りないということは、ブルクハルトがなんらかの形で動きを止めているということだ。座学にもあったように、地球にいたときは平常に見えても、宇宙に出てすぐばったり倒れることは割合少なくない。そもそもブルクハルトの様子はおかしかった。ペレストレロはハッキングをしてまで、ブルクハルトの部屋に侵入した。
ブルクハルトは結局、模型作りに夢中になっていただけだった。彼女はマスコミに見せた顔と180°違う形相で、ブルクハルトの非礼をとがめた。
こうしてRECSは発進した。
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