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春16|アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日

アイの楽園(第16話)

全滅

タグ: ##純文学 #SF #サスペンス #ホラー

小説

827文字

16.堕天ノ楽園

シフト3連——ギアが3枚飛ぶ機械音——3倍増しで体を押し上げるペダル——バイクを振って踏み抜く——ズリッ——リアタイヤが掴んだ砂利を抜き去る。

前にいたハルが並ぶ。弾む息、首輪の金具、弛んだリードが踊って前輪のスポークを掃く。砂利を蹴るハルの足の横で、ホイールがみじん切り器のように空気を切り裂く。

ハルが一瞬、目だけでこっちを見た——次の瞬間、ステムに繋いだリードが張り——のけぞりそうな衝撃——トップギアのハルが再び割り込んだ。

「——!?ハル!ちょ……!速ぇってッッ!!」

重力の壁を破ったハルのピッチが、さっきまでの比ではない。地面に叩き込まれる四つの足から爆ぜる小石と土が、風圧でヒリついた目を襲う。

ペダルがリアハブのラッチを見失って抜ける。連打したシフトレバーは虚しくバネの反発だけを返す。

弛まないリード——千切れ飛ぶ景色——小刻みに離陸するフロントタイヤ——鳴き続けるリアブレーキ——

「——やっ……べッッ!!」

フロントが濡れた石ですっぽ抜け——轍で踏ん張る——落としかけた心臓を、横隔膜で元の位置に押し込む。

ハルに追いついた雨雲がみるみるうちに路面を黒く濡らし、顔を嬲る雨粒はあっという間に水煙になって視界を覆った。

——ガシュッッ!!ゴンッッッ!!

サスのダンパーが石を食らって抜け、リアがリム打ち——ガレ場に突っ込んだバイクが俺を石だらけの地面に叩き落とそうと暴れる。

ペダルから弾かれる足——チェーンがフレームを叩く音——フロントタイヤが浴びせる小石混じりの水——

ガキッッ!!

飛び越えた石がチェーンリングをヒットする。ブレーキは悲鳴を上げながら泥まみれのリムを滑り続ける。

2メートル先、雨に霞む急カーブにハルが吸い込まれた。

リアを流し、内足を付いてバンク——

———倒木———ッッッ!!!

避——間に合——

ガッッンッッッ!!!

——飛——受け身——不可——崖——ッ!!

ミシッ——左脇腹——ッ

© 2026 全滅 ( 2026年2月1日公開

作品集『アイの楽園』第16話 (全18話)

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