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春13|アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日

アイの楽園(第13話)

全滅

背後から投影される木の黒い影と、そこに成る光学の実、あるいは重工業の神殿にばら撒かれた銀貨のような木漏れ日。

タグ: ##純文学 #SF #サスペンス #ホラー

小説

1,282文字

13.木漏レ日ノ楽園

天地を返すような坂。のしかかる日差しが、細長いフレームと直交するハンドルバーと、その両端を握り、這いつくばるようにバイクを押す俺の影を重ねてアスファルトに焼き付ける。

そこから前方へ、一瞬も弛まずに地面に伸びる一筋の細い影。その先を這う、四本の足で重力の勾配に爪を立てる獣の影と、影を引き千切らんばかりに進む獣。

顔を上げてその先に焦点を合わせると、白く灼かれた景色と額から落ちる汗で押し潰された視界に、朧げに建物の輪郭が滲んだ。

急坂の頂点に切り出された複数の四角い構造物が僅かずつせり上がる。陽炎に揺れるその目標物の集合は、一向に足元を見せようとしない。

体が軽くなり、重力がまっすぐに地面を押していることに気づいた時、俺の視界はすでに量産品の建物群よりも、居住区を包囲する森を捉えていた。

右手に連なり、居住区とその外側の闇を隔てる木々。そこからひんやりと湿った風が吹くたびに漂う植物の死臭、土と倒木が撒き散らす有機化合物の匂い。

「ここ……」

ガードレールの切れ目から暗い森へ、両肘が支えるほど細い階段状の土止めが切り込んでいる。

居住区の排血を地に還すドレインのようなその隙間に、ハルがスルリと吸い込まれる。

——

最下部に到達するとそこは、居住区の底から10メートルほど垂直に切り落とされた擁壁に沿って伸びる、直射日光の届かない小道だった。

右手に続く滑らかな白いRC造の擁壁。10メートルほど先の壁面に、そこだけ日が当たっている箇所がある。

落ち葉を踏んで進み、3メートルほどの範囲に光が当たるその壁の前に立った。

背後から投影される木の黒い影と、そこに成る光学の実、あるいは重工業の神殿にばら撒かれた銀貨のような木漏れ日。

その光の雨を浴びる俺の影が、二度と見られないレトロ映画の偶然のハレーションに目が眩んだかのように、壁の真ん中に立ち尽くしている。

じりじりと首筋を炙る陽光が落とすその影は、巨大なコンクリートの垂れ幕を左右に両断する継ぎ目の上に立ち、じっと俺を見つめ返していた。

その周囲、モノクロのスクリーンを縁取るように真っ直ぐに壁を這い上る蔦の、萌黄色の細指のような先端が向かう先を見上げる。

そこには白い擁壁の上辺と、それを押し返す不規則な黒い木々の輪郭、その間で千切れそうに切り取られた空があった。

足元で枯れ葉が弾ける音。ぜんまいが解けるように逃げ出すカナヘビにハルが一手遅れで前足を繰り出し、そのまま道の奥へ俺を引っ張る。

若葉の裏でひっそりと、慈しむように卵塊を抱くクモを驚かさないよう、草をそっとかき分けて進む。

纏わりつく蚊とクモの糸、吹き出す汗と混ざり合う湿気に、セミの声。

擁壁の下を埋め尽くす空き缶やペットボトル、はち切れたゴミ袋、アダルトグッズやポルノ雑誌、自転車——

5分ほど歩くと、森の中を登っていく車一台分ほどの幅の砂利道にぶつかった。

やや西に傾き始めた太陽を見上げる。開けた道を抜ける風が、汗だくの身体を一瞬冷やして右手の下り坂へ消えた。

ハルが進んだ。左だ。右ポケットに入れたままのスマホは、汗で太ももにべったりと張り付いている。

© 2026 全滅 ( 2026年2月1日公開

作品集『アイの楽園』第13話 (全17話)

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