6.自室屋ノ楽園
昼白色のLEDに暴かれた部屋は朝よりもマシに見えた。蛇口を捻ると、湯が冷えた手の骨に染みる。
残った方のカーテンを閉めた時、窓は割れていないことに気づいた。ホームレスになったわけじゃない。逃げずにドアを開けられたじゃないか。
嘘だ。ドアを開けられたのはハルが——黙れ。どうでもいい。
倒れた冷蔵庫を力任せに起こす。ガチャガチャと中身が暴れ、隙間から何かの液体が漏れたが、もう立ってさえいればなんでもいい。
床一面に破れた本と服、そこに混ざった土と食品……つまりこの部屋の全て。いや、食器棚は無事だ。
ビニール袋を広げ、足元にあった白菜の切れ端をぶち込む。
脂ぎって破れた靴下、ショットガンで撃たれてトラックに轢かれたみたいなプラケース。淡々と袋に突っ込む。
——
いつか夏生にプレゼントした恐竜のマスコットは、乾いた唾液と白い綿と緑の布の塊になっていた。夏生が二週間かけた作品は原型すら思い出せない。
ソファーのクッションを押すと、ジュクジュクと嫌な汁が指を濡らし、真っ二つに折れた木の脚のささくれが服の袖に引っかかる。
いつのまにか俺は床に座り込み、手に貼り付いた床のワックスをペリペリと無我夢中で剥いていた。
——部屋の隅が、影が動いた。
「ハル。」
肩を揺すりながら、破壊神が王者の足取りで歩いてくる。
「ハル、おいで。」
お前は何も悪くない。ただ生まれ、知らない場所に連れて来られ、懸命に生きてるだけだ。俺と同じじゃないか。
ハルの厚い首元の毛に指を沈ませると、ハルは暖かく湿った舌でその手を舐めた。
胸にゴロッと詰まったものが上がってきて、唇が僅かに震え出す。目と鼻が抗いがたく熱い。
ハルの姿が滲み……じんわりと全てがほどけて……暖かくて……
そう、暖くて……
「ファッッッッ!?!?!?」
"春06|アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日"へのコメント 0件