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マイノリティって、何人まで?

第41回文学フリマ東京原稿募集応募作品

破滅派

《本多勝一×バルガス=リョサ×古谷経衡》
行政区再編で“最大多数の最小マイノリティ”になってしまった男が、選挙を操ろうとする未遂文学。
※この小説は生成AI(ChatGPT 5)が作成しました。

タグ: #AIが生成 #政治 #第41回文学フリマ東京原稿募集

小説

4,760文字

住民票が勝手に移動した、と妻が言い張る。役所が深夜にトラックで戸籍簿を積んで走るわけはない、と笑い飛ばしたが、翌朝ポストに届いた案内状を見て私が黙った。行政区再編。地図の境界線が細いピンクのマーカーで塗り直され、うちの町内会が切り離されている。北の商店街とは別の選挙区に組み込まれ、川沿いの住宅地とひとまとめにされた。合理化といえば聞こえはいい。人口の歪みをならし、公共サービスの重複をなくすための、数式のように冷たい再分配。それでも私の胃には、きつい酸がたまった。

案内状の左下に、ご丁寧に属性統計が載っていた。平均年齢、世帯所得、投票率、宗教団体の加入率。ここまではよくある。だが最後の欄に見慣れない言葉がある。「最大多数の最小マイノリティ」。括弧書きには〈本区の意思決定に影響を与えうる最小規模の集団〉。その隣にパーセンテージ、2.3%。私は息を呑んだ。表の脚注に具体例が並ぶ。「町内会未加入」「単身男性・四十代・持ち家」「旧町名復活運動の署名経験者」。その三つが重なる者、つまり私だった。

妻は鼻で笑って「あなたが“影響を与えうる”ですって」と言ったが、私はむしろ膝が震えた。世界のどこかで、私という粒が分類されたのだ。統計の棚に、ほこりのように並べられた。その棚番号を知ってしまった者は、たぶん二度と元には戻れない。

 

私は記事を集めはじめた。旧区の広報誌、議会だより、匿名掲示板のログ。記者になったつもりでノートを作る。見出しを付け、日付を入れ、固有名詞に赤線を引いた。若い頃、『日本語の作文技術』を読み、短文で断定しろ、と教えられたのを思い出す。断定は気持ちがいい。推量は腰が弱い。そういう言葉の骨組みの問題と、選挙の票の数え方は、同じ筋肉を使っている気がした。

再編の影響で、うちの小学校区がまるごと新しい選挙区の「端」に立った。端は弱い。橋の下にあるスナック、廃業した銭湯、空き地になった駐車場。端の町は、誰かの計算の端数のように見える。だが、端は時に梃子(てこ)にもなる。地図の外から押せば、全体がひっくり返る。ノートに「端は梃子」と書いて丸で囲む。

 

区議会議員の顔ぶれを洗う。ベテラン二人、新人三人。新人のうち一人は、名前が覚えやすい。もう一人は父親の代からの地盤がある。残る一人は、SNSで炎上経験があり、テレビのワイドショーにも呼ばれたことがある。炎上は火傷を残すが、外套にもなる。自分の傷を見せて歩く人間は、なぜか人を集める。

私は自宅近くの公園で行われるタウンミーティングに出た。質疑で手を挙げ、再編の根拠データについて質問する。議員は笑顔で「アルゴリズムが」と言い、職員は「専門家による」と言う。私は「誰が、どのように?」を繰り返す。会場にはベビーカー、犬、缶コーヒー。誰も怒ってはいない。怒りの作法を忘れた町だ。私は帰宅すると、ノートにこう書いた――怒りが失効している。

 

ある晩、私は自分の属性が2.3%だという事実を逆手に取る企てを思いついた。二点を結ぶ直線は最短だが、政治はいつも曲線を好む。曲げれば見えなくなるからだ。私の集団、つまり「単身男性・四十代・持ち家・町内会未加入・旧町名復活署名済」の者たちを探し出す。人数にして百二十人ほど。彼らは互いに知らない。だが統計上は、私たちは肩を組んで歩いている。ならば本当に肩を組んでみたらどうだろう。

方法は単純だ。名簿などない。町の掲示板、空き家バンクの情報、固定資産税の滞納催告、古地図展の来場者記録。合法の範囲で、匂いを嗅ぐ。古道具屋に通い、昔の地番で話しかける。「この辺、二丁目って言ったんですよね」。目尻がほころぶ老人がいる。頷く四十代がいる。私は路地でタバコの火を借り、名前を聞かずに別れる。次の夜、別の角でまた火を借りる。火の匂いで人は連帯する――ノートにそう書いて、恥ずかしくなって線で消した。

 

私は「投票率調整計画」と名づけた紙を作った。選挙に勝つのではない。負けさせるのでもない。投票率を揺らすのだ。私たち百二十人が、直前まで候補を決めず、ある合図で一斉に別候補に投票すれば、端の町の重さはふわりと浮く。結果は全体の数パーセント。だが端は梃子だ。私は指を鳴らす練習をした。合図のために。

紙の余白に条件を書き足す。「違法なものはしない」「買収はしない」「名前を名乗らない」「指の鳴らし方は各自で」。笑った。未遂文学、と誰かが言っていた気がする。やってしまったら、それはただの事件で、文学にはならない。未遂でなければ、言葉は残らない。私はますます笑って、紙を二つに折った。

 

その頃から、旧町名の看板運動が再燃した。町内会有志が私の家にも回ってきて、「保存会を再開します」と言った。私は会費を払った。妻は意外そうな顔をした。町内会に入らない主義はどうしたの、と訊かれて、私は「統計を裏切るためだ」と答えた。私が会員になることで、私の2.3%は崩れる。最大多数の最小マイノリティは、最大多数の最小にしか存在しえない砂の城だ。波を一つ、当ててみる。

だが皮肉なことに、保存会の最初の集まりで、私は私たち百二十人のうち四人に出会ってしまった。元測量会社の男、試験に落ち続けた教師、日雇いのコーダー、それから失敗した中古車屋。みな四十代。みな、ベランダに物干し竿を二本以上持っている。選挙の話はしない。旧町名の字体の話をする。「崩しすぎない方がいい」「縦画が強すぎると、看板の柱が細く見える」。私たちは美学についてのみ、慎重になれた。

 

保存会の議事録は、私が書くことになった。文末を体言止めにして、余韻を与え、しかし断定を怖れない。誰も文句を言わない。議事録の末尾に、私は短い注を付した。「本保存会は、政治団体ではない」。それは事実であり、願望であり、呪文でもあった。

 

計画の日が近づくと、私は不意に、いくつかの時間の層を夢に見るようになった。四百年前の地図に、今日の投票所の場所が薄く重なっている。川の流れが変わり、橋がズレ、地名が布のように縫い直される。私は橋の欄干で指を鳴らし、岸の草むらで誰かが同じリズムを返す。合図は届かない。届かないこと自体が、合図になっていく。

朝、妻に「よく眠れた?」と訊かれ、私は「よく眠れなかった」と答え、そう書き付けた。短文で断定しろ、という教えに背く快楽を覚えた。

 

投票日の前夜、保存会は古地図展の会場で集まって、最後の準備をした。準備といっても、看板の位置を地図上に落とし込むだけだ。誰も、選挙について口にしない。私は展示室の端で、うっすらと笑っている自分に気づいた。やっていないことの周囲にだけ、熱が生じる。未遂の周囲の空気は、甘い。

すると、元測量会社の男が私の耳もとで囁いた。「あなた、指を鳴らす癖があるだろう」。私は肩を跳ねさせる。彼は続けた。「あんたがここの核なんだろう。計画には同意しないけど、賛成はするよ」。意味のわからない言い方だと思った。彼は地図の上で、旧町名の輪郭にそっと指を沿わせた。輪郭は、誰かが夜のうちに消しゴムで薄くしたように、頼りない。

 

当日。投票所は中学校の体育館だ。床はワックスの匂い。バスケットのゴールが上に引き上げられ、吊り鎖が鈍く光る。私は受付で名を名乗り、鉛筆を受け取り、記載台に入る。合図はまだ出していない。出すかどうかも決めていない。私のポケットの中の指は、湿っている。選挙は秘密だ。秘密なのに、秘密の重さは誰にも分割できない。私は一人で持ちきれなくなり、机の角に額を寄せた。木目が縞馬のように走り、その中に古い川筋の模様を見る。私は紙に一つの名前を書き、折り、箱に落とす。音はしない。沈黙が完璧に仕上がっているからだ。

校門を出ると、空がやたらと広い。私はポケットからスマートフォンを出し、保存会のグループに「看板の位置、三丁目の角はもう少し左寄りで」とだけ書いて送った。合図の代わりに、看板の指示を飛ばした。指は鳴らさなかった。鳴らせなかった。

 

開票結果は、翌日の新聞で見た。新人のうち、炎上経験のある男が当選した。得票差はわずか。分析記事は「端の地区の投票率が上がった」と書いた。私はコーヒーを啜りながら、ニュースサイトのグラフを見た。確かに、うちの小学校区の棒が、きれいに伸びている。だがそれは、私たち百二十人のわずかな動きのせいなのか、看板運動のせいなのか、あるいは単に天気がよかったからなのか。どれでもあり、どれでもない。私はノートに大きな字で書いた――因果は物語であり、物語は因果ではない。

 

しばらくして、役所からまた案内状が届いた。行政区再評価。統計の棚が更新されるという。私は封を切る前に、紙の手触りでそれが悪いニュースであることを悟った。案内状は、私の属性欄から「旧町名復活署名済」を外し、新たに「保存会会員」を追加していた。私たちの2.3%は、1.1%になっていた。最大多数の最小マイノリティは、より小さく、より多数から遠ざかった。端は梃子であり続けるが、梃子の支点は行政の手で容易に移動される。私は椅子に座り、深く息を吐いた。未遂は、成功を怖れるのではなく、更新を怖れるのだ。

 

その夜、保存会の会合で、看板の字体が決まった。縦画は強すぎず、横画は少し長く、旧仮名遣いを採り、濁点の位置はわずかに低く。決めながら、私は合図を出さないまま過ぎた一日を思い返す。やらなかったことの堆積が、薄い地層になって私の胸のあたりに積もっている。誰にも見えない地層。古地図の下に、さらに古い地図が隠れているように。

会の終わりに、元測量会社の男がまた近寄ってきた。「あんた、あのとき指を鳴らさなかったろう」。私は頷いた。彼は少しだけ笑って、「それでいい」と言った。「あんたが鳴らしたら、私たちは少数者でいることをやめるところだった」。意味が分からない、とまた思った。彼は続ける。「少数でいることは、悪じゃない。少数の輪郭が、町の形を覚えているからだ」。私は返す言葉を持たなかった。

 

家に帰ると、妻がソファで雑誌を読んでいた。「ねえ」と彼女は言った。「マイノリティって、何人まで?」。私は沈黙した。質問は古い。子供が算数でつまずくときのように単純で、しかし誰も正解を持っていない。「数えられるうちは」と私は言いかけて、やめた。数えられるということは、誰かが数えるということだ。私か、役所か、アルゴリズムか、または炎上した新人か。数えられなさは、敗北ではなく猶予だ。未遂のための時間だ。

私は机に向かい、ノートを開いた。表紙に「未遂」と書いた。中に、今日書くはずだった合図を書いた。人差し指と親指の腹を湿らせ、そっと触れ合わせる。音は出ない。出ないことが、今夜の記録になる。

 

春、看板が立った。新しい旧町名の板は、朝の光にまだ慣れていない。通りすぎる通学路の子どもたちは、読めない字を面白がって指でなぞる。濁点が少し低いので、指も少し下がる。私は立て札の陰に入り、影の長さを測る。測りながら、この影もまた、いつか更新されるのだろう、と考える。川の流れが変わるように、投票区がまた割られるように、影もまた別の角度で落ちる。だが、そのたびに、看板の字は読まれ、指はなぞられ、私のノートには新しい未遂が一つ増える。

マイノリティは、何人までだろう。答えは、看板の裏に貼られた、誰かの落書きに近い。「ここは三丁目。あなたは?」。私はポケットの中で、また指をこすり合わせる。音はしない。しないままで、私は歩き出す。未遂の音だけを連れて。

© 2025 破滅派 ( 2025年9月9日公開

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