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スカートの裾から核の夢

第41回文学フリマ東京原稿募集応募作品

破滅派

小学生の脚を見てしまうたび、世界が終わってくれればと思っていた中年男の黙祷。
※この作品は生成AI(Claude Opus 4.1)が作成しました。「小学生」というテーマは拒否されました。

タグ: #AIが生成 #第41回文学フリマ東京原稿募集

小説

4,347文字

朝の通勤電車、七時四十二分。

向かいの席に座る女性のスカートから伸びる脚を、また見てしまった。黒いストッキングに包まれたふくらはぎが、吊り革につかまる手元まで視界を支配する。慌てて視線を逸らそうとするが、車窓に映る自分の顔が、欲望に歪んでいるのが見えて吐き気がした。

五十三歳。システムエンジニア。妻と二人の子供。住宅ローンはあと十五年。これが俺の人生の要約だ。

だが、もう一つの顔がある。

ポケットの中のスマートフォンが震えた。特殊なアプリからの通知。画面を確認すると、暗号化されたメッセージが表示されている。

『プロジェクト・ラグナロク フェーズ3承認』

俺は、ある組織の一員だった。

正確に言えば、かつて防衛省の技術研究本部にいた頃に接触してきた国際的な団体。彼らの目的は単純明快だった。「人類のリセット」。核による浄化。選ばれた者だけが生き残る新世界の創造。

最初は冗談だと思った。だが、彼らの持つ情報、技術、そして資金は本物だった。そして何より、俺の中にある破壊衝動と完璧に共鳴した。

オフィスに着くと、いつものようにサーバールームに向かった。表向きは金融システムの保守。だが、本当の仕事は別にある。世界中の原子力発電所の制御システムに潜むバックドア。それを管理し、いつでも作動できる状態に保つこと。

「おはようございます、田中さん」

若い女性社員が挨拶してきた。膝上のスカートから覗く太ももに、また視線が吸い寄せられる。彼女は気づいていないふりをして通り過ぎていく。

この瞬間、強烈な自己嫌悪と同時に、ある種の正当性を感じる。こんな俺のような人間が普通に存在する世界など、リセットされるべきなのだ。

昼休み、屋上でタバコを吸いながら、組織から送られてきた資料を確認した。

フェーズ3は、日本国内の原発への同時侵入を意味している。物理的なテロではない。あくまでサイバー攻撃。冷却システムを一時的に停止させ、メルトダウンの一歩手前まで追い込む。パニックを引き起こし、社会を混乱させる。それが第一段階。

資料には、詳細なタイムテーブルが記されていた。実行は二週間後。

「お父さん、最近疲れてるみたい」

夕食時、娘が心配そうに言った。高校二年生の娘は、来年受験を控えている。

「仕事が忙しくてね」

「そういえば、今日学校で核シェルターの話が出たよ。物理の先生が、最近また需要が増えてるって」

妻が眉をひそめた。

「物騒な話ね。冷戦じゃあるまいし」

俺は黙って味噌汁を啜った。彼女たちは知らない。二週間後に何が起きるか。いや、起こそうとしているのが、他ならぬ俺だということを。

深夜、書斎に籠もった。

パソコンを立ち上げ、特殊なVPNを経由して組織のサーバーにアクセスする。フェーズ3の詳細な計画書をダウンロードし、暗号化して別のサーバーに保存する。保険だ。もし何かあった時の。

作業を終えて、ふと本棚に目をやった。村上春樹、大江健三郎、三島由紀夫。日本の作家たちの作品が並んでいる。彼らも皆、何らかの形で世界の終わりを描いていた。

俺は原稿用紙を取り出し、ペンを握った。

「告白」と題して書き始める。だが、それは小説ではなく、遺書のようなものだった。

一週間が過ぎた。

準備は着々と進んでいる。各原発のシステムに仕込まれたマルウェアは、俺の指示を待っている。まるで眠れる爆弾のように。

通勤電車で、いつもの女性を見た。今日は白いブラウスに紺のタイトスカート。立っている彼女の後ろ姿を見ながら、ふと思った。この人も、二週間後には違う世界にいるのだろうか。

「すみません」

声をかけられて振り返ると、その女性だった。

「落としましたよ」

手には俺の社員証があった。いつの間にか落としていたらしい。

「あ、ありがとうございます」

彼女は微笑んで、元の位置に戻っていった。その時、彼女の左手の薬指に指輪がないことに気づいた。

なぜか、その事実が胸に突き刺さった。

オフィスで、緊急会議が召集された。

「サイバーセキュリティ部門から報告があります。最近、原子力関連施設への不審なアクセスが増えているそうです」

上司の言葉に、内心冷や汗をかいた。だが、表面上は平静を装う。

「我々のシステムは大丈夫でしょうか」

「念のため、全システムの総点検を行います。田中君、君が責任者だ」

皮肉なものだ。侵入者を探す責任者が、当の侵入者だなんて。

その夜、組織から緊急連絡が入った。

『計画変更。実行を一週間前倒し。明後日決行』

理由は、各国の諜報機関が動き始めたから。これ以上待てば、計画が露見する可能性がある。

俺は震える手でキーボードを叩いた。最終確認コードを入力し、システムを起動準備状態にする。あとは実行コマンドを送信するだけ。

だが、なぜか手が止まった。

娘の顔が浮かんだ。妻の顔も。そして、電車で会った、あの女性の顔も。

実行予定日の前日。

俺は会社を休んだ。体調不良と偽って。

家で一人、パソコンの前に座っている。画面には実行プログラムが表示されている。ENTERキーを押せば、全てが始まる。日本中の原発が一斉に異常を起こし、パニックが広がり、そして…

スマートフォンが鳴った。娘からだった。

「お父さん、大丈夫? 今日学校帰りに薬買って帰ろうか?」

「いいよ、大丈夫だから」

「じゃあ、早く帰るね。お母さんも心配してたから」

電話を切った後、原稿用紙を取り出した。

書き始めたのは、今度こそ本当の小説だった。タイトルは「スカートの裾から核の夢」。

主人公は俺と同じ、中年のエンジニア。女性の脚を見るたびに劣情に苛まれ、その度に世界の終わりを願う。そしてある日、本当に世界を終わらせる力を手に入れてしまう。

書いているうちに、気がついた。

俺が本当に終わらせたいのは、世界ではない。女性の脚を見て欲情する自分。その醜い欲望。それを抱えて生きることの苦しさ。つまり、俺自身だ。

だが、世界を道連れにする権利など、俺にはない。

組織にメッセージを送った。

『計画から離脱する』

返信はすぐに来た。

『裏切り者には死を』

予想通りの反応だった。だが、構わない。俺は全ての証拠をUSBメモリに保存し、それを封筒に入れた。宛先は警察庁サイバー犯罪対策課。

投函する前に、もう一度原稿を読み返した。

小説の最後、主人公は実行ボタンを押さない。代わりに、自首する。そして刑務所の中で、初めて心の平安を得る。女性の脚を見ることもなく、ただ四角い空と、コンクリートの壁を見つめる日々。それが彼にとっての救済だった。

翌日、予定されていた時刻。

何も起きなかった。

俺が仕込んだマルウェアは、すでに削除されていた。組織も俺の密告により、各国の諜報機関によって壊滅させられたらしい。ニュースでは「国際的サイバーテロ組織摘発」として小さく報じられただけだった。

俺は逮捕されなかった。司法取引により、証言と引き換えに免責を得た。ただし、厳重な監視下に置かれることになった。

会社は解雇された。当然だ。

妻には全てを話した。泣かれた。罵られた。そして、離婚を切り出された。

「でも、踏みとどまったのよね」

最後に妻はそう言った。

「それだけが、救いね」

娘には、仕事で大きな失敗をしたとだけ伝えた。真実を知る必要はない。

新しい職を探さなければならない。年齢的に厳しいが、やるしかない。

ある日、例の電車に乗った。

就職活動の帰りだった。不採用通知を三通もらった日。

向かいの席に、あの女性が座った。黒いストッキング、紺のスカート。いつもと同じ格好。

視線が、また吸い寄せられそうになる。

だが今度は、自分の手元を見た。履歴書を入れた鞄を握る、しわだらけの手。これが俺の現実だ。

「あの」

顔を上げると、女性が俺を見ていた。

「この前は、社員証を拾っていただいて」

「いえ、逆です。あなたが落としたのを」

「あ、そうでした」

彼女は少し笑った。

「最近、会社でお見かけしませんが」

「転職しまして」

嘘ではない。これから転職するのだから。

「そうですか。新しい場所でも頑張ってください」

彼女は次の駅で降りていった。

スカートの裾が、ドアの向こうに消えていく。俺は、その後ろ姿を見送った。もう、核の夢は見ない。ただ、これからも時々、女性の脚を見て、密かに欲情するだろう。それが俺という人間の一部なのだ。

醜いかもしれない。卑しいかもしれない。

だが、それを理由に世界を終わらせようとした俺よりは、はるかにマシだ。

半年後。

小さなIT企業に再就職が決まった。給料は以前の半分以下。だが、仕事はある。

妻とは別居中。離婚調停が続いている。娘は時々連絡をくれる。大学に合格したそうだ。物理学科。皮肉なものだ。

ある日、書いていた小説を文学賞に応募した。

「スカートの裾から核の夢」。多少の改稿を加えたが、基本的な筋は変わらない。中年男の欲望と破滅願望、そして最後の選択。

三か月後、結果が発表された。

最終選考落選。

選評にはこう書かれていた。

「リアリティはあるが、主人公の選択が予定調和的。もっと深い闇を描いてほしかった」

苦笑した。深い闇なら、いくらでも描ける。実際に、その闇の中にいたのだから。だが、もう描かない。描く必要がない。

新しい職場への通勤電車。

今日も女性たちが乗っている。スカート姿の人も、パンツスーツの人も。俺は時々、彼女たちの脚を盗み見る。その度に、小さな罪悪感を覚える。

だが、もう世界の終わりは願わない。

核のボタンも押さない。押せない。

ただ、この小さな欲望と、それに伴う罪悪感を抱えて生きていく。死ぬまで。それが俺の選んだ道であり、俺の黙祷だ。

電車が駅に着いた。

ドアが開き、人々が降りていく。俺も立ち上がった。

今日も一日が始まる。核の夢ではなく、現実の一日が。醜く、卑しく、それでも続いていく日常が。

スカートの裾は、今日も俺の視界を横切っていく。

だが俺は、もう核のボタンを探さない。

ただ、目を伏せ、次の駅まで、静かに黙祷を続ける。生きることへの。そして、生かされていることへの。

原稿用紙の最後に、俺は書いた。

「これは、ある男の告白である。そして、警告でもある。あなたの隣にいる平凡な中年男が、何を考えているか。何を抱えているか。そして、何を選択したか。知ってほしい。理解はできなくても、知ってほしい。それが、せめてもの償いだから」

ペンを置いた。

窓の外を見ると、夕焼けが街を赤く染めていた。まるで、核の炎のように。だが、これは破壊の光ではない。一日の終わりを告げる、優しい光だ。

明日も、この光を見られるだろうか。

見られるだろう。俺が選んだのだから。生きることを。この醜い欲望と共に、最後まで生きることを。

スカートの裾から始まった核の夢は、こうして終わった。

いや、終わらせた。俺自身の手で。

それでいい。それがいい。

© 2025 破滅派 ( 2025年9月9日公開

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