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時、あるいは時間

REFLECTION(第6話)

加藤那奈

タッタッタッタッ、と、足音に合わせて呼吸を整える。
ハッハッハッハッ、と、口から息を吐く。
景色が変われば、人も変わる。
時間が違えば別人だ。もちろんそれは私も同様。
(2025年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

21,148文字

III

 

私が少女を初めて見かけたのはいつだっただろう。

二年前、それとも三年前。

たぶんそれくらいだ。

初夏だった、と、思う。いや、春先、だったかもしれない。
早朝、私は公園のベンチに座っていた。のんびりとした散歩の途中で一休みしていた。そんなとき、彼女が私の前を通りかかった。私のことなど気づきもせずに、真っ直ぐ前を向いて走り去っていった。私も彼女のことなどことさら気にも留めていなかった。早朝のジョギングなど珍しくもない。走り去る後ろ姿に、若い子もこんな朝早くに走るんだな、と、その時思ってすぐに忘れた。

再び少女を見かけたのは、一週間くらいあとだったかな。

私はいつものように朝の散歩をしていた。朝、というだけで、散歩の時間も道筋も決めてはいない。歩く距離もその日の気分だ。習慣的な行動があまり好きにはなれない。それは思考停止に似ている。歩きながらただ考えるだけならそれもいい。昔々、一日の行動が時計のように正確だった思想家がいた。抽象的な思考に集中するなら、いちいち余計な意識を向けないよう規則的な日常を送った方がいいのかもしれない。だが、私の脳みそは閉じた思考で発見や問題解決ができるほど優れていない。外からの刺激が必要だ。だから五感を変化に晒す。毎日別の道を歩きながら、いつもと少し違う景色を眺める。その日その朝の音に耳を澄ます。空気を嗅ぎ、その冷たさに触れる。同じ日などない。何かが違うはずだ。何が違うのか、どうして違うのか。昨日とは違う何かを求めて五感を研ぎ澄ます。

街道沿いの歩道を歩いていた時だった。

彼女が私を追い越していった。

背後から足音が聞こえた。規則的なリズムで靴を鳴らし、どんどん近づいてくる。私は脇によって、やり過ごす。私の横を過ぎる時、その横顔を見た。どこかで見たことのある少女だと感じた。私はゆっくり歩きながら、その背中を見送った。それが少し前に公園で見かけた少女のことを思い出したのは、彼女の背中が見えなくなってからだった。
中学生だろうか。あの少女と同じくらいの年頃だ。

その時は同じ少女だとは思わなかった。前に見かけた公園とはずいぶん離れた場所だ。

家に帰った後も、あの足音と後ろ姿に既視感が纏わり付いていた。もしかすると同じ子だったかもしれない……だからといって、どうだということでもない。それを確かめる術もない。だが、私にとって、こんなどうしようもないことを直感することが大切なのだ。感覚を鋭敏にし、記憶と繋げること。それは思考と想像力に息吹を与える。

彼女にまたどこかで出会えないだろうか。

見かけたところで、場所や時間が違っていれば気づけないかもしれない。あるいは別の少女を同じ少女と思い込むかもしれない。だが、それならそれでいい。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年4月18日公開

作品集『REFLECTION』最終話 (全6話)

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