VII
ママなんて大嫌い!
家を飛び出す間際に言った自分の言葉がすごく厭だった。
どうしてあんな言い方したんだろう……その一言が頭の中で何回も何回も繰り返される。いつまで経っても消えない谺みたいに、頭の中で響いているの。後悔してる? ううん、後悔じゃない、と、思うの。後悔っていうのは選び間違えた時に悔しく思うことでしょ。あのときは、言葉を選ぶ間もなく口をついて出た。私の感情が丸ごと乗っかった、生々しい言葉……だから、自分が大嫌いになりそうなくらい、厭で厭で厭で厭なの。だって、私、本当はママのこと大嫌いなのかもしれないでしょ。
普段の私は、ちゃんと考えている。自分の好きなことやしたいこと、パパやママが喜ぶことや私にして欲しいと思ってること、パパやママは絶対ダメって言いそうだけど、私がどうしてもしたいこと。そういうことがいろいろあって、私も嬉しく思ったり、悲しく感じたりしている。好きって思ったり嫌いって言ったりする。だからどんなに感情的になっても、私は正しいの。間違っていない。それが原因で友達と喧嘩しても、大人に叱られても、誰かに謝ることになっても、みんなに迷惑をかけたことや誰かを傷つけたことについては素直に謝るし、心からいけないことをしたと反省するけど、それは私が間違ったんじゃなくて、誰かの考え方や気持ちに合わせられなかっただけ。私が駄目だったのは、上手く伝えられなかったことと、他人を理解できなかったこと。だから、これまでだって、いっぱいいっぱい後悔した。いっぱいいっぱい反省した。少しは上手く伝えられるようになったと思ってる。少しは誰かのことも理解できるようになったと思ってる。
でも、あれは、そんな私から出てきた言葉じゃない。
思わず言ってしまったの。
ママは、私の大きな声に驚いて、悲しく困った表情をした。
驚いたのは私もだった。
マイナスモードの気持ちが昂ぶってたことは認めるの。
ママだって忙しいのはわかってるし、ときどき私との約束を忘れちゃったり、守れなかったりすることもある。これまでだって、なかったわけじゃない。そんなとき、私は怒ったり、泣いたりひとしきりするけど、それで納得した。納得するために怒ったり、泣いたりしたんだ。
でも、今度はそうじゃない。
ママなんて大嫌い!
そんなこと言うつもりはなかったし、考えたこともなかった。家を飛び出したのは、自分の言葉に驚いたせいかもしれない。ママの顔が見られなかったせいかもしれない。自分が信じられなくなって、私が私でなくなっちゃった、みたい。
だからね、私は自分が厭でたまらないの。
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