XVI
日暮れ前に公園にはたどり着いたけど、どこへ行けばいいのかわからなかった。あの日、私が座ったベンチはどれだろう。広い公園にベンチなんていっぱいある。あの時は何も考えていなかったから、私がどこにいたのか見当もつかないの。
ひとつひとつ確かめていくしかないのかな。
私は入口に近いところから、ベンチを見つけては座ってみるの。違う、違う、これも違う……こんなことして見つかるのかな。きっと見つかる、よね。大きな不安と小さな確信が頭の中でまぜこぜになっていた。まだいくつも見つけていないのに、日が暮れてしまったの。暗い夜が公園を覆いつくしてしまうの。ぽつりぽつりと点る街灯だけが、世界をぼんやり浮かび上がらせている。私は灯りの島を渡るように、ベンチを見つけながら公園の中を歩き回っていたの。
だんだん心細くなったの。
おじいちゃん。
ママ。
時間がどれくらいたったのかわからなくなった。
気が付くと、公園中が静まり返ってる。
さっきまで聞こえていた、遠くで自動車がひっきりなしに走る音も聞こえない。
梢が風に揺れる音もしない。
耳を塞がれたみたいに、何も聞こえない。
今、自分がいる場所もどこかわからない。同じ場所をぐるぐる回っているだけのような気もしてきた。この公園のことだって、よく知っているわけじゃないけれど、全然知らない場所に迷い込んでしまったような気もする。
灯りと灯りの間で沈んだようにひっそりしていたベンチに腰かけて、私は途方に暮れていた。私、なんでこんなところにいるのかな。
そうだった。
にゃお、にゃお、にゃお。
私は君を探しに来たんだよ。あの日のあのベンチで出会った君にもう一度会いたかったの。だから、同じベンチで待っていれば君ともう一度会えるように思ったから。
君と出会った時のことを思い出していたら。体がなんだかフワフワしたの。私、暗がりに溶けてしまいそうになってた。黒いワンピースのせい、なのかな。自分と夜の境目がわからなくなってゆくの。私、このまま消えちゃうのかな。それでも、いいかな。私がいなくなったら、ママもおじいちゃんも悲しむのかな。私はどうなのかな。悲しいのかな、寂しいのかな……よくわからなくなっちゃった。
その時ね、暗がりの中に金色の小さな光が点ったの。小さな光が、私の方へと近づいてきた。そしてね、私の膝に乗っかったの。ちょっと重くて、とっても温かかったんだ。
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