黒いワンピース

REFLECTION(第2話)

加藤那奈

小説

20,056文字

少女と母と猫、そして祖父と人形。
(2023年)

XIII

 

おじいちゃんの話をするね。

おじいちゃんて呼んでるけど、ホントはママの叔父さん。えっと、大叔父さん、っていうんだっけ。ホントのおじいちゃん……ママのパパとパパのパパは、ふたりとも私が小さい頃に死んじゃった。だから、今の私にはおじいちゃんがおじいちゃんなの。

私はおじいちゃんのことが大好きだけど、おじいちゃんが私のことを好きなのかどうかはわからない。たぶん嫌われてはいないと思う、けど。だって普段はあんまり喋らないんだ。おはよう。気をつけていってらっしゃい。おかえり。おやすみ。一日に聞くおじいちゃんの声はだいたいこの4つ。でもね、何かきっかけがあるとすごくたくさん喋るんだよ。一ヶ月分とか1年分のお喋りを一気に吐き出すみたい。喋り出したら、私が聞いてるかどうかなんてどうでもいいみたい。でも、ちゃんと聞いてるよ。お話しの内容はときどきよくわからないけど、なんだか面白いんだもん。だからといって、まくし立てるようなしゃべり方じゃないよ。ゆっくりゆっくり考えながら喋るんだ。途中で質問すれば、それについても、時間をかけて、期待していた答えの十倍くらい答えてくれる。ときどきもとのお話しがなんだったか忘れちゃうくらい。

ママが昔言ってた。あなたはおじいちゃんに似てるって。そのときはそうかなぁって思ったけど、私も普段無口なくせに、興味のあることならいくらでもお喋りできる。こういうところが似てるのかなってわかったら、私、おじいちゃんのことが好きになったんだ。

おじいちゃんが一番得意なお話しは、お人形のお話しなんだよ。それも物語とかじゃなくて、本当のお話。いろんなお人形のことを知っているの。ひな人形とか五月人形とか昔からある人形、外国で呪いだとか生け贄の代わりにされた人形、古いフランス人形、からくり人形、いろんな国のオモチャの人形。おじいちゃんのお話では、埴輪だって人形なんだよ。確かにヒトの形、だもんね。でも、一番面白いのは着せ替え人形。女の子が遊ぶやつ。おじいちゃんなのにすごく詳しいんだよ。なんかヘンだよね。ふつうに考えたら、ちょっと危ない人かも、だよね。でも、そう言うんじゃないんだよ。お人形の研究をしていたんだって。その研究がなんの役に立つのかわからないけど……役にたたなくても面白いのかな。そういえば、幼稚園の頃、私のお誕生日に着せ替え人形をプレゼントしてくれたこと、良く覚えてる。その後も、いくつかお人形やお人形の服、もらった。

私がおじいちゃんの所へ来たのも、私の気持ちをきっとわかってくれる気がしたから、かな。子供の我儘なんて大人にとってはきっとつまらないことだし、理解してもらえないかもしれないけど、どうしてかな、おじいちゃんならわかってくれると思ったんだ。それに、ママもここなら心配しない。私が転がり込んでから、おじいちゃんはママと連絡取ってるにちがいないもん。ママが心配してるとか、早く帰れとか、そんなことは絶対に言わないし、ずっといたって、どうこういわないと思ってる。きっと私がそんな風に考えてるって、何もいわなくてもおじいちゃんは察していてくれる。たぶん、だけど。

2025年1月8日公開

作品集『REFLECTION』最新話 (全2話)

© 2025 加藤那奈

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