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黒いワンピース

REFLECTION(第2話)

加藤那奈

少女と母と猫、そして祖父と人形。
(2023年)

タグ: #ファンタジー #散文 #純文学

小説

20,056文字

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私はママの作ってくれる服が好き。

小さな頃からお洋服はママが作ってくれた。全部じゃないけど、半分くらいはママのお手製で、お店で買ったのより好きだった。ママの服はなんでか着心地がいいの。きっと私の身体に合わせて作ってくれるからじゃないかな。でも、私、まだ子供だから背も伸びちゃうし、身体もちょっとずつ大きくなるから、できたての時は少しだけ大きくて、着慣れた頃にちょうどよくなる。ママはそれを見越して作ってるから、その後も少しだけ大きくお直しできるようにしてあるんだって。それにね、私のお気に入りをちゃんとわかってくれてるんだ。一番のお気に入りで、まだまだ着続けたいのに、ちょっと小さくなってきたから、もうお別れかなって思っていたら、同じデザインで同じ色や柄のお洋服が用意してくれていたこともあるの。

ママもお仕事してるから、とっても忙しいはずなのにいつの間にか出来てるんだよ。魔法使いみたい。

この黒いワンピースもママが作ってくれたんだよ。去年、作ってくれたんだ。夏用のお洋服、どんなのがいい?って聞かれたから、黒のシンプルなワンピースがいいって、私がリクエストしたの。ウェストにベルトがあって、スカートは少しフレアになっていて。
ママ、ちょっと不思議な顔をしていた――黒? シンプル?

これまでにないリクエストだったから。ピンクがいい、とか、ネイビーがいい、黄色、オレンジ、とか。小さな花柄がいい、タータンチェックでね、とか。ここにリボンをつけて、フリルが欲しいな、ひらひらしてるの好き……そんなのばっかりだったから。

ちょっとオトナになったってことなのかな、って、笑いながらママがいくつかデザインを考えて、そこから私が選んだの。

一年たって、大きくもなく、小さくもなく、ちょうどいい感じになってきた。

家にはね、これまでママが私に作ってくれた服、全部しまったクローゼットがあるの。赤ちゃんの頃からのを全部。汚しちゃったのや、破いちゃったのもあるはずなのに、全部きれいにクリーニングして、痛んだところはお直しして保管してある。小さな子供のいるお母さんにあげちゃおうかって考えたこともあったみたいだけど、どうしても、出来なかったんだって。
――私があなたのために作った服には、あなたと私の思い出が詰まっているのよ。そうね、思い出のアルバムみたいなものかな。あなたがこの服を着てたとき、こんなことがあった、あんなことがあったって、手にした端から、思い出が溢れてくるのよ。たぶんね、この服達がみんな覚えてるんだよ。写真なんかより、よほどはっきり思い出すんだ。だからね、誰にもあげられなかった。

ママ、今、どうしてるかな……この黒いワンピースは、きっと厭な思い出も、しっかり覚えてしまうんだよね。ずっとずっと忘れないんだよね……。

© 2025 加藤那奈 ( 2025年1月8日公開

作品集『REFLECTION』第2話 (全6話)

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