VII
ビジョンがあったの。
私が世界に包まれている。そして、私が世界を包み込む。私の存在は世界の一部で、世界は私の存在の一部。溶け合っているような、いないような、混ざり合っているような、いないような。具体的には説明できないけど、その情景は鮮明で、たぶん、鮮明で、私は何もかも理解している。そんな気分なの。そんなビジョンなの。無理矢理足りない言葉にしてみると、なんだか宗教めいて聞こえるけれど、そんなに神秘的なことじゃない。風を感じる、とか、花の香りを嗅ぐとか、そんな感覚の延長線上にある、と、思うの。ただ、視覚や嗅覚みたいな五感とは少し違う……そういうのを全部まぜこぜにして、もっと全身に染みこむような、しかも心の内側から滲み出すような、直感的なビジョン、なのかな。
私は私だけど私じゃないの。私はここにいて、ここにいなくて、どこにでもいる。
ううん、わかってるよ。この、私、は、この、私の身体は今、ここにある。でも、そういうことじゃない。今、とか、ここ、とか、そんなのはどうでもいいの。
言葉にすると、声に出すと、思春期の無邪気な妄想めいてるね。自己中心的で、天邪鬼で、何もかもを勘違いしていて、身の程知らずで、でもどこか純粋で、無自覚で。そう、あとから思い出すと恥ずかしくなるみたいな妄想で。うん、わかってる。私も私を嘲笑うの。何もかもがわかっているような私を私自身が一番可笑しく思ってる。私は世界を見下している。私自身も見下している。そんな私を幾重にも幾重にも卑下している。何もかもが茶番なの。きっとすべてが虚像なの。どこにも実像のない虚像なの。
夜の宙空でぎこちなく舞い踊る私は、いったい何様なのかな。
どうしてこんな、堕天使めいた衣装に身を包んでいるのかな。
私は見つけ出した場所に立つ。私がすうっと嵌まり込む。隙間なく、肌に吸い付くみたいに、私は世界を身に纏うの。するとね、自然に私の身体が動きはじめる。私の意志とは少しだけずれたところで、天頂を指さすように両腕を真上にかざす。何かを包み込むように少し隙間を空けて掌を合わせる。そしてゆっくり振り下ろす。腕を正面に振り下ろしたところで制止する。私が止めたのではなく、時間を失ったように動かなくなるの。風も時間も私の脇をすり抜ける。だから、どれくらいの時間が経ったのかはわからないの。私の思考もちぐはぐで、同じ場所をぐるぐる回っていたり、脈絡なくスキップしたり、遅延したり。一瞬と永遠の区別がつかない場所に、きっと私は立っている。
声が聞こえたの。
囁くような、うめくような。
どこから聞こえてくるかはわからない。私は世界で、世界は私だから、自分の心臓の鼓動も遠くの風のたなびく音も区別がない。外も内もなく私の鼓膜をただ震わせている。その解読できないメッセージを受け止めるべく、前に突きだした掌を引っ張り上げるように上へと力を込めて。重い。とても、重い。だから私はもっともっと力を込めるの。
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