XIII
どうせ他人事だからね。
だって気持ち悪いじゃない。気持ち悪いって、思うはず、じゃない。そうでしょ。あなたも同じことが自分の身に起こったらって想像してご覧なさいよ。動揺するでしょ。
そんなこと言ったってさ、と、私の向かい側で彼女はテーブルに肘を着きます。
わからないよ、と、鼻から息を抜く。
その姿は、いかにもあなたらしいんだけれど、だから、私は少しほっとするのだけれど、同時にけっこう苛々するの。
そんなことより、早く食べたら。
うん。
たぶんだけど、ここで、わかる、わかるよ、なんて言う相手とは、きっと友達にすらなれない気がする。私にとって、誰かとの間にある溝はとても大切なのだ。溝の広さと深さを無視する相手は、お互いわからないことを共有できない。もちろん、多くの人が他人との溝を、その広さと深さをないものとして、自分勝手な親しみを押し付け合いながら、友達だとか恋人だとかパートナーだとかの関係を、張りぼてのようなデリケートな関係を気づいているのは薄々わかる。だけど、私にはきっとそれができない。不器用だとか融通が利かないだとか、まあ、きっとそういえばみんな納得するんだろう。私の拒絶を、ただの手際の悪さと誤解して、曲解、して、無理矢理距離を詰め始める。それは、とっても気持ち悪い。
一枚のピザとひと皿のパスタを挟んで、私はあなたの顔をじっと見る。
きっと私は、とっても不満げな顔をしている。そして、彼女はそれをいともあっさり受け入れる。むしろ楽しんでいるのかも。
あんたは神経質過ぎるんだよね。
そういう彼女も、自分自身で気づいているのかいないのか、負けず劣らず神経質だ。言動からはわからないけど、私はすぐに気がついたから、ある意味おあいこで、お互い様なんだけど。
私はピザの一片を指で直に摘まむ。伸びるチーズをフォークで掬うように切りながら、トッピングが落ちないように少し折り曲げて口に運ぶ。あなたは、フォークとスプーンでパスタをくるくる巻き上げて、手前の小皿に小分けする。
それは、とても見慣れた日常の光景だけど、これまでに何度も目にしているけれど、今日はどこか違っているような気がしたのです。それはたぶん、私、の、所為なんだと思うけど。
彼女が私の仕草をコピーしたかのように、ピザを摘まむ。
私が彼女の仕草をコピーしたかのようにパスタを巻き取る。
ささやかな幸福感が、舌の上に転がる。
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