2017年12月13日、台北駐日経済文化代表処が、岩波書店の辞書『広辞苑』の記述に対して公式に異議を申し入れたと発表した。『広辞苑』の現行版(第六版)では台湾が中国の領土であるとして紹介されている箇所が複数あり、日本国内の親台派を中心に改訂を要求する声が挙がっていた。代表処は事実上の大使館に相当する。

問題となっているのは、以下の3点だ。

  • 台湾が「一九四五年日本の敗戦によって中国に復帰」したという記述
  • 中国の地図における「台湾省」という表記
  • 日中共同声明で「台湾がこれに帰属することを実質的に認め」たという記述

代表処はこれらについて、「事実と異なる内容が見受けられる」「断じて中華人民共和国の一部ではない」「しかるべき修正を強く要望した」と公式サイトに声明を載せている。日本は台湾を国家として承認してはいないものの、帰属についても明言せずあえて曖昧のままにしているので、政府のスタンスを考慮しても岩波の表記は正しくないということになる。

もっとも、これが『広辞苑』でなければ、おそらくここまで大きな問題とはならなかったはずだ。イデオロギー的に偏っているメディアがこうした記述をすることはめずらしくもなんともない。今回の騒動は、『広辞苑』が国民的辞書として広く認められていることの裏返しともいえるだろう。

当初の台湾紙での報道では、「一部の人間が盛り上がっているだけで、岩波が動くことはないだろう」という旨の推測がなされていた。しかし代表処が動いたとなると、岩波も無視というわけにはいかないのではないか。10年ぶりの改訂となる第七版の発売まではもう1か月もないが、はたして岩波はどのような対応をするのだろうか。