2016年6月30日(木)、世界知的所有権機構(WIPO)は、カナダがマラケシュ条約に批准したことを発表した。これで条約発効のために必要な批准20ヶ国を達成したため、9月30日(金)よりマラケシュ条約が発効されることとなった。

マラケシュ条約は、2013年の採択以来、出版業界や図書館業界で大きな注目を集めてきた。正式には「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が、発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」という名称で、書籍を満足に読むことのできない障害者にも、オーディオブックや点字といった形で出版物に触れやすい環境づくりをしようというものだ。

概略だけを見ると、マラケシュ条約は手放しで賛同すべきものであるかのように見える。だが事態はもう少し複雑だ。これまでの批准国一覧を見ると、また違った感想が浮かぶだろう。

インド、エルサルバドル、アラブ首長国連邦、マリ、ウルグアイ、パラグアイ、シンガポール、アルゼンチン、メキシコ、モンゴル、韓国、オーストラリア、ブラジル、ペルー、北朝鮮、イスラエル、チリ、エクアドル、グアテマラ、カナダ

見てのとおり、主要先進国がほとんど加わっていないのだ。

これは、各国の著作権法との兼ね合いによるものだ。マラケシュ条約の精神そのものに否定的な先進国は存在しないはずだが、先進国だからこそ、すでに成熟した著作権法が浸透してしまっている。オーディオブック化したり点字化したりといった行為は著作物の複製行為に当たるので、既存の著作権法とバッティングしてしまう箇所が少なからず出てきてしまうというわけだ。

日本においても、2015年6月に衆議院でマラケシュ条約についての質問があったが、このときの政府の答弁は以下のようなものだった。

その締結に向けて、障害者団体、権利者団体等の国内関係者の要望を十分踏まえつつ、関係省庁間で検討を行っているところであるが、現時点で具体的な締結時期についてお答えすることは困難である。

長期的視野では前向きなようだが、日本がマラケシュ条約を締結するにはまだもう少し時間がかかりそうだ。

なお余談だが、筆者の家系には難病指定されている眼の疾患の因子がある。本来であればこの病気の発症率は5,000人に1人とされているにもかかわらず、3親等以内だけで4人もの罹患者があるほどだ。血筋的に筆者自身も将来的に視力を失う可能性はゼロではなく、個人的興味の点からも、このニュースの行く先を見守っていければと思う。