第一章の書き出しは「二週間前」から始まる。秋内静が自転車のブレーキに細工をされて事故を起こした二週間前のことだ。一章の時点で秋内が友江京也、巻坂ひろ子、羽住智佳と知り合ってから二年経過していて、さらに三か月前に秋内の祖父の家でバーベキューをして、そこで初めて秋内は羽住智佳とまともに話せるようになったと書かれている。上手い書き出しだとは思えなかった私は時系列を使った叙述トリックが展開されるのかと身構えたが、それらしきものは見つけられず五章まで読み終えてしまった。「秋内よお、お前は二年間も指くわえて智佳を見てただけなのかよ」、そんな言葉がつい口をついてしまった。
さて、私の足りない頭の時系列がしっちゃかめっちゃかにされた恨み節はこの辺にして、推理すべき点を書き出すことにする。
・椎崎洋介の死
・椎崎鏡子の自殺
・秋内静の事故
【椎崎洋介の死】
間宮未知夫は秋内から事故の詳細を聞いて「もういいじゃないか」と秋内に対して急によそよそしくなった。それは秋内の行動によって意図せず洋介が死んだことを示唆していると考えた。そもそも洋介の死はオービーの突発的な行動で起こった事故であり、計画的に行える殺人などではない。偶然起こった事故だ。では、その偶然とは何か?
オービーは頭の弱い犬だった。いくら何でも車の走っている車道に飛び出す犬はいない。オービーは歩道の人の多さに怯えていたところ、向かいの道路に秋内の姿を見つけ走り出した。バカ犬だから、バカ犬で犬の視力は0.3しかないらしいから汗の匂いで秋内を見つけたのかもしれない。とにかくオービーは洋介の存在を忘れて洋介の友人である秋内を見つけ走り出した。そして洋介は智佳に言われたようにリードをしっかり握っていたため、車道に飛び出しトラックに轢かれてしまった。洋介の死は京也の雀云々の行動とは一切関係のない偶然の事故だった。
【椎崎鏡子の自殺】
鏡子は自殺で間違いないだろう。遺書が見つからない自殺は必ず司法解剖にかけられる。数日たっても鏡子と繋がりのあるものに捜査が及ばなかったのは警察が自殺だと判断したからだ。鏡子の自殺は息子を失った失意を起因とする突発的なものだと考える。自殺の殆どは突発的な心理変化によってなされる。京也との関係の縺れは考えにくい。京也はゲイであり、秋内に密かに思いを寄せていた。ノンケの男は例え十歳以上の歳の離れた女であっても、裸で一緒にベッドに入っていて何もないなんてことは考えられない(京也はひろ子と付き合っていた二年間で一度も性交渉をしなかった。それゆえ、ひろ子は京也の浮気を疑うことになる)。京也は秋内を守るために、鏡子にオービーが秋内に向かって走って行ったことを伝えなかった。自分がその場にいたことも言っていない。
【秋内静の事故】
くどいほど阿久津が関わっていると匂わせる描写がある。しかし、この事故に阿久津が関わっているとなると、アンフェアが過ぎる。阿久津と秋内は二度しか顔を合わせていない(二度といった表記がミスリードを誘っているのだろう)し、秋内の周りの人物との繋がりが弱すぎる。実は阿久津が鏡子の元夫、悟だったらブックオフで100円で買った文庫本を壁に投げつけてやる。
阿久津からの電話では、集荷依頼をしたのは男性とのことだ。運転免許証を持っているであろう男性は阿久津、間宮、鏡子の元夫、椎崎悟である。この中に犯人がいるのだろうけれど、阿久津や悟をアンフェアだと言った手前、残るは間宮となるが、間宮は秋内とのやり取りから犯人とは思えないし、動機も無い。
……降参です。
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