「ねぇ。四つん這いになってよ。」
ナツコはほぼ初対面の僕に、ニヤニヤしながら言った。
「なんで?」
「アナル開発していい?」
「え?アナル?」
「そう」
「今まで何人開発してきたの?」
「初めて、だからやってみたいの」
僕とナツコはライブバーで偶然出会った。見た目が恐ろしい女がいるな。初めての印象はそんなもんだった。背中まである黒髪のロングヘアーに切れ長の目、爪が2つ分ぐらいの長さでアメジストのような色合いのロングネイル。革ジャンを着てカウンター席でタバコをプカプカ吸っていた。
初めて見る顔だな…。ここの店には3年くらい通っているから、大体この店にくる常連の顔はわかる。誰かと一緒に来ているのではなく一人で来ている。正直、この手のタイプの女は若干苦手だ。
「山中くん、ちょっときて!」バーのマスターに呼ばれてカウンター席へ移動した。
「ナツコちゃんです。」
きたきた、このマスターの人と人をくっつける癖。あまり会話が弾まない相手だとこうやってすぐ、他人を巻き込む。
「どうも、山中です。」
「どうも、ナツコです。」
僕は初対面は正直苦手だ。あまり自分に自信がないため、女の子とうまく話せなかったりする。あと、同棲している彼女がいるというところがうまくストッパーになっていて、あまり女子と親密な感じになりたくない、悪者になりたくないような気分で、俺の人生こんなもんだろと線引きをしてしまうような、少しつまらない大人だった。でも僕はとりあえがんばって話そうと思い、どこ出身、なんでこの店に来たか、などたわいもない話をしていた。
「なんか犯罪者顔ですね。」
「犯罪者顔ってどういうこと?」
「宮﨑勤みたいな。メガネかけて、何考えてるかわかんない系。」
「宮﨑勤は失礼だな!世代じゃないでしょ。よく知ってるね。俺も世代じゃないけど。」
「ナツコちゃんはどんなものが好きなの?」
「うーん、最近は暗黒舞踏とかはまってます。」
「どういうやつ?」
「こういうのです。」
ケータイにほ人してある動画を見せてもらった。黒づくめで白塗りメイクをした人たちが儀式のような踊りをしていた。
「なるほど、勅使河原三郎みたいなやつか。」
「誰ですか、それ。」
「ダンサーかな。」
「へー面白そうな人ですね。」
「太宰治を朗読したテープを流しながら踊ったりする人。暗黒舞踏ではないかもね。」
「へー山中さんおもしろい人ですね。」
「何が!特におもしろいこと言ってないよ。」
「なんかにじみ出てるような。私おじさん好きなんですよね。
「そうなんだ。俺はおじさんじゃないけどね。」
「え?おいくつですか?」
「28歳」
「えー意外と若いもっと上かと思った。連絡先交換しませんか?。」
「いいよ。」
こんな美人が俺ごときに興味があるはずないよな。とあまり舞い上がらないようにがんばった。
そんなことから、ふたりで飲みに行くことになった。
「ナツコちゃん、山中君とセックスしたいらしいよ。」
口が軽いで有名な小林さんという常連客からそんなこと聞かされた。
「絶対うそですよね。何陥れようとしてるんですか。」
「いやいや、ほんとだよ。ラインみる?」
ラインを見せてもらうと確かにそのようなことが書かれていた。
なんかモテ期が来たな。何年ぶりだろう。と、浮かれそうになったが、重大な懸念事項があった。
僕が4年付き合ってるみすずのことだ。”通称”ねこ娘。ねこっぽい顔だから影でそう言われている。僕は彼女と職場で出会い、なんとなく飲みに行こうと誘われて、なんとなくセックスしてしまって、なんとなく付き合うことになった。その後なんとなく家に転がり込んで来て、そこから4年が経過した。
僕はボロアパートに長いこと住んでいて、毎日ゴキブリが出るような家だった。6畳一間で玄関がベニヤ板のような薄さの引き戸で、ユニットバスでバランス釜だった。さらに下の階にはヒステリックなじじいが住んでいる家だった。
僕が彼女とセックスをしていると、下の階からおそらく、棒状のもので、ドン!ドン!と付いてくる。せっかくいい所なのに邪魔してんじゃねえと、腹が立ってジャンプして仕返しした。10秒程度間が空いたところ、ドンッ!!と震度2か?と思わせるくらいの、丸太で突いたのかというレベルの攻撃が来る。そこからしばらくすると家に警察が来た。
「あの、家で騒音をだして迷惑な住人がいると通報がありまして、、、」
「え?なんの話ですか?」
「静かですよね。なんですかね。かしこまりました。失礼しました。」と警察が帰って行く。
絶対、下のくそじじいだ。あいつにはぜってぇ負けねえ。など思っていたが、翌朝、出勤しようとして外に出ると、玄関の引き戸のベニヤ板に赤文字で書かれた紙が貼られていた。
”何回注意すれば理解できるんだ?PM10時からAM8時までは一切の生活騒音(エアコンを含む)を出すな!今日深夜、バタバタと歩き回る音がうるさい。予想以上に階下は足音が響く。ここは高級マンションではない。静かにしろ!特に女の足音がうるさい!寝られない!それと契約者以外の人間がこのアパーに出入りするな!もう少し共同生活のルールを守れ!今度静かにしないと徹底的に不動産屋にクレームを入れ続けてこのアパーを出て行ってもらうぞ。静かにしろ”
その後も定期的に、
”毎日、毎日、うるさい!夜11時から朝8時までは静かにしろ!(特に階段の上り下り)ドアの開閉、歩く足音、深夜の風呂、水荘の開閉)今度同じことを繰り返したら安眠妨害として、不動産を通して、民事裁判を起こして、慰謝料を請求するぞ!その時は裁判費用もあなたが支払うことになる。忘れるな。それと女!部外者がこのアパーに出入りするな!不審者としてマッポに通報するぞ。
”アパー”ってなんだ。アパートだろ。怒りすぎて書き忘れたか?それか気づいたがそのままスルーしたな。などと感想を抱きつつ。
”裁判をおこすから覚伍しとけ!慰謝料を用意しとけ!”
おいおい、覚悟の悟の字が間違ってるよ。伍じゃなくて悟な、と一人突っ込みながら、ビリビリに破いて捨てた。
「もう、こんな家住みたくない!家なのに安心できない!!」
みすずが突然発狂しはじめた。
「わかった、わかった、俺も引っ越したいから、引っ越そう。」
そんなことで、引越しを決意した。しかし引越し資金がない。どうしたことか。
「あのさ…みすず、言いにくいんだけどさ、引越し資金がなくて、スナックかなんか、時給が高いところででバイトして稼いでくれないかな。10万くらいあればいいんだけど…」
「わかった。あの家は本当に嫌だからバイトするね。」
みすずがスナックで働き始めた。その日から彼女のアル中へのカウントダウンが始まったということを僕は知る由もなかった。
なんとか引越し資金がたまり、家賃を折半にしてそれなりにいいアパートを借りた
12畳。いままでの部屋より綺麗で、快適な家だ。そこから僕たちの同棲生活がはじまった。
引っ越してからもみすずはスナックで働き続けた。もう辞めてもいいんだよといっても楽しいから働きたいと。毎日夜中の4時ごろ帰ってきて、倒れるように床に眠る。それを僕が布団までひきづっていき、服を脱がせ寝かしつける。そんなことを毎晩のようにしていた。
気づいたらみすずは、支離滅裂な言動が増えて行った。
「セイユーに来て。」「わかった。」僕は家の近所のセイユーに向かった。
エスカレーターを登って、日用品コーナーへ向かってる途中。
「てめぇふざけんなよ!」「あんたこそなんなのよ!」と喧嘩の声が聞こえた。まさかな。と思いエスカレーターを上がって行く。エスカレーターを登ってるとだんだんみすずとババアがメンチを切りあってる光景が目に入って来る。おいおい、めんどくせぇなと思い二人を止めようとしたら、みすずが僕の腕に絡みついて来た。
「いこっ!」
「え?いいの?」
ババアも恥ずかしそうな顔をして場を後にした。なにかいちゃもんつけてくるかと思ったが案外何事もなく終わってよかった。
「なんで喧嘩してたの?」「うーん…」話をごまかされてとりあえず買い物を済ます。「たばこ買いたい。」「オッケー」
近所のコンビニに移動し、タバコを買った。
「なんでババアと喧嘩してたの?」
「え?私喧嘩してた?」「さっき言い合いしてたじゃん」「え?そうだっけ…とりあえずお腹すいたからパスタ食べに行こ。」「まぁいいけど…」
僕たちはミートソース専門店に移動を始めた。
「そういえば、タバコ買わなきゃ。」「え?さっき買ったじゃん」「買ったっけ?」「さっきセブンで買ったよ。カバン見てみな」「ほんとだ…」
何か言動がおかしい。
「帰ろ!」「パスタはいいの?」「うんお腹すいてない。」「なにそれ、ほんとに?ご飯食べたの?」「うーん、食べたっけな。」
なんか会話が噛み合わない。とりあえず、家に帰ることにした。
みすずは布団に帰って来た状態のまま布団に飛び込んで眠りこけてしまった。そんなに疲れていたのかな。てかあいつ今日は何してたんだろう。
まあいいや、酒でも飲むか。この前買っておいたウイスキーを戸棚から出そうとした。あれ?ない。たしかにおとといくらいに買って、まだ一杯くらいしか飲んでないから絶対あるはずだ。家のあらゆる場所を探したが見つからない。うーんと頭を抱えながら、コンビニにビールを買いに行った。ビールを飲みながら映画を見ていたら、みすずがのそっと起きて、冷蔵庫から麦茶を取り出しガブガブ飲み始めた。
「俺のウイスキーしらない?」
「しらないよ。」
「あ、そう。」
「今日なんで喧嘩してたの?」
「え?喧嘩?誰と?なんの話?」
「セイユーでババアと喧嘩してたじゃない。」
「え?なんの話?」
「え?覚えてないの?」
まさか、記憶が完全に飛んでいるのか?それともふざけているのか。
まあ、深く追求するのはやめよう。曖昧模糊の状態のまま、シャワーを浴び、ふたりで眠りについた。
数日後、仕事帰りにスーパーでウイスキーを買って、あとで飲もうと思い、戸棚に入れようとして、戸棚を開けた。中に僕が前買って飲もうとした同じ銘柄のウイスキーが普通に入っていた。あれ?おかしいな。あと若干減っている。まあみすずが少し飲んでるのだろうと思い、いつも通り映画を見て、ウイスキーを飲んだ。
その後、みすずがまた朝4時ごろへべれけで帰って来て、いつものように布団に運ぶ。そんな日々がしばらく続いた。
ある日を境に、みすずがずっと家にいるのではないかという疑惑が出てきた。おそらくスナックはやめたな。あとは僕が社員として働いてる職場のアルバイトに週二日くらいはいるくらいで、あと5日はすっと家にいるのではないか。
思い切って、「スナックは最近やめたの?」と尋ねて見た。
「ママの体調が悪くて、今店閉めてるの。」「そうなんだ。」
僕は若干不信感があったため、ネットで彼女が働いているであろうスナックのホームページを確認した。あれ?営業してるっぽくないか?僕は真相をたしかめようと、みすずの目をごまかし、一人スナックへ向かった。「いらっしゃいませ!」やはり普通に営業してるじゃないか。カウンター席に座り、ビールを注文した。「こんばんは~ルナです!今日ははじめてですか?」
「はじめてです!でも知り合いが働いてるという話を聞いたので、今日はその子に会いにきたんですが、いないみたいですね。」
「そうなんですか~。その子のお名前は?」
「みすずって子です。源氏名とかなければ。」
一瞬場が凍りついた気がした。
「みすずちゃんね。最近やめちゃいました。」
「なんでですか?」
「ちょっと色々ありまして…」
これ以上聞くとやばいかな。と思いつつ、なにがあったんですかと尋ねて見た。
「わたしもあんまり詳しくはないんですが、ケンカ、みたいな感じですかね。」
「お客さんとですか?従業員と?」
「まぁ、両方というかなんというか…。」
なるほど、僕も彼女がケンカしてるところを思い出し、納得がいった。あとは深く詮索するのはやめよう。
そこから2、3杯飲みつつ、世間話をしてから退店した。
やはり、みすずはスナックを辞めていたか。さらに営業してるじゃないか。こうなると、彼女は嘘ばかりつく虚言癖があるかもしれない。背筋が少しゾッとした。
家に帰って飲み直そうとして、戸棚からウイスキーを出す。あれ?またない。昨日までは半分以上残っていたのに。瓶ごと消えている。
「ウイスキーしらない?」
「しらないよ。」
「いや、知ってるはずでしょ!昨日まで合ったの知ってるから。」
「うるせぇな。」みすずが急に切れ始めた。
「うるせぇってなんだよ。だからどうしたかって聞いてんだよこっちは!」
こちらもなかなかヒートアップしてきた。
「飲んだよ。飲んだって言えば気がすむのかよ。」
「あの量を1日で飲んだの?」
「悪いかよ。」
「いや、悪くはないけど…」
僕の頭の中にとある単語が浮かんできた。アル中。アルコール中毒、アルコール依存症。みすずがだいぶ前からアル中だったと考えると、色々合点がつく。なぜいままで気がつかなかったのか。というか気づいたところでどうしたらいいのか。僕はとりあえずネットを駆使してアル中について調べ始めた。
アルコール依存症診断。これを受けてもらうか。というかまずは自分でやってみよう。
Q1、どれくらいの頻度でアルコール飲料を飲みますか。A、週4回以上。
Q2、飲酒時は平均して、純アルコール換算で1日にどれくらいの量を飲みますか?。100g以上
Q3、どれくらいの頻度で、一度にアルコール換算で60g以上飲むことがありますか?A、毎週
Q4、飲み始めると、飲むのを止められなくなったことが過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?A、毎週
Q5、飲酒のせいで、普通だと行えることができなかったことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?A、なし
Q6、飲みすぎた翌朝、アルコール飲料を飲まないと動けなかったことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?A 、なし(というか、動けないことは多いが、がんばって動いている。)
Q7、飲酒後に罪悪感や後ろめたさを感じたり、後悔したことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?A、なし
Q8、飲酒の翌朝に昨夜の行動を思い出せなかったことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?A、毎月
Q9、あなたの飲酒により、あなた自身や他の人がケガをしたことはありますか?A、なし
Q10、肉親や親戚、友人、医師、または他の健康管理に携わる人があなたの飲酒について心配したり、飲酒を控えるように勧めたことはありますか? A、あるが、過去1年間はなし
あなたの評点は、18点、危険で有害な飲酒。飲酒量を減らした方が良さそうです。もしくは専門医療機関を受診しましょう。
なるほど、僕もアル中予備軍ってやつか。この診断をみすずに成り切って受けて見た。毎週、毎週、ある、ある、ある…
あなたの評点は31点。結果、アルコール依存症が疑われる飲酒。断酒(お酒を完全に止めること)をした方が良さそうです。
やはり、みすずはアルコール依存症だ。間違いない。飲んでないと嘘をつくのもアル中の典型的な症状らしい。アル中とは、目が覚めている間、常にアルコールに対する強い渇望間があり、自分の意思で飲酒をコントロールできず、飲酒で様々なトラブルを起こし後で激しく後悔するも、それを忘れようとまた飲酒を続ける。そして怖いのが離脱症状、頭痛、不眠、イライラ、発汗、手指や全身の震え、めまい、吐き気、その後怒りっぽくなり、抑うつ、せん妄、うつ病、不安障害、双極性障害、統合失調症などの精神疾患にもなりやすい。
せん妄、そう思うと、以前みすずきっかけで警察を呼んだことがあった。
みすずから電話が何件かきていて、外人は死ねばいいというラインが入った。どういうこと?と連絡をし、電話をかけ直した。
さっき、外で、外人に刃物を突きつけられて、無理やりキスをされた。なんで電話に出てくれないかったの、なんで助けてくれなかったのと。
僕は外で酒を飲んでいて、その連絡に気づかなかった。心配になり、すぐ家に帰って話を聞いた。警察を呼んで調べてもらおうと僕が提案したが、警察は嫌だと揉めた。
「思い出したくないの。本当にやめて。」
「刃物持ってるとしたら、次の被害者が出ないためにも警察に話さなきゃだめでしょ!」なんて臭いセリフを吐いてしまった。
僕はケータイ電話で、110に電話した。
「事件ですか?事故ですか?」
「事件です。」
「場所はどこですか、けが人はいますか?」
これこれこういう理由でと事細かに話した。
「今から伺いますので、待っていてください。」
しばらくして警察が到着した。被害者が女性ということで、女性の警官も来てくれた。事情をもう一度説明してから、警察の対応を待った。
「無理やりキスをされたなら口の中にまだ犯人のDNAが残されてる可能性があるので、口の中を少しだけ綿棒で擦らせていただけませんか?」
「嫌です。私、警察のこと信用してないんで。」
中二みたいなことを言いやがるなと思った。信用できないとはなんぞや。しかし。僕は男のため痴漢など性的な犯罪の怖さなどをきちんと理解できない。理解しようとした所で、うまくできないだろうし、薄っぺらくなってしまうだろう。性的な被害にあったときの恐怖を想像してみた。おそらく、小学生低学年など、力が大人にかなわない時に、おばちゃんに馬乗りにされて、めちゃくちゃにくすぐられる恐怖と同じくらいであろうか。それか、ムキムキのゲイにぶん殴られて、チンコをアナルに打ち込まれるくらいの恐怖心だろうか。うーん。ちょっと想像力が追いつかない。とりあえず、DNAくらい取らせてあげればいいのにと思う。
「彼氏さん、ちょっと外に来てくれませんか。」年配の男性警官に呼び出され、外に停めてある覆面パトカーに乗せられる。
「ちょっと言い出しにくいんですが…」
「なんでしょうか。」
「あんまりこういうことは言いたくないのですが、犯人の話なのですが、刃物を持ってたという話で、突きつけられたというお話じゃないですか。いままでのこのような事件を例にあげると、刃物を突きつけられて、キスだけで終わった例はないんですよね。だいたい、どこかに連れて行かれて、レイプされるんです。キスだけで終わった事例が警察に届け出されてないという可能性もありますが…でもおそらく刃物を突きつけられたら確実に警察に被害届を出しますよね。なので、あまりこういうことは言いたくないのですが…」
「彼女は虚言癖があると。」
「そう…です。彼氏に構ってもらいたくて、このような嘘をつく事例も過去にはありました。今回の事件が全て嘘とは私も言いませんが。あとだいぶお酒を飲まれているようですので、まぁ、DNAさえ取れれば何かわかると思いますので、彼氏さんのほうからなんとか説得して見てもらえませんか。」
やはり、酔っ払ってたか。僕は鼻が悪いため、キスをするくらい顔の近くに寄って口の匂いを直接かがないと、酒を飲んでいるのかがわからない。一般的に酒くさ!と思うことがいままでなかった。それが彼女がアル中だと気づくのが遅れた原因でもあった。
僕は家に戻り、しぶしぶ、DNA鑑定をしてくれるように説得を試みた。
「DNAだけでも取ってくれないかな。せっかく警察にも来てもらったんだから捜査してもらおうよ。
「てめぇが勝手に呼んだんだろうがよ!おい!」みすずが突然キレ始めた。
家にある、皿やコップを投げ始めた。パリン!パリン!
「おい!マジでやめろ!今何時だと思ってるんだ!」
時刻は夜中の3時を回っていた。大変な近所迷惑である。
女性警察がみすずを羽交い締めにし、なんとか収まった。警察も気を使ってくれて、
「そこまで嫌ならこちらも無理はいたしません。無理強いしてしまい申し訳なかったね。これから現場付近の防犯カメラをチェックしにいきますので何か、犯人を特定できる映像など撮れてましたら、またご連絡いたします。
その後、警察からの連絡はない。
そんな情緒不安定のアル中の彼女がいるため、浮気などしてしまったら、何をされるかわかったもんじゃない。
それが僕がナツコちゃんとあまり関わりたくない理由だった。しかし、結局約束をして、ナツコちゃんに会ってしまった。
「お疲れーす。」
ナツコと僕は居酒屋で乾杯した。ナツコは二十歳になったばかりのデザイン系の学生だった。その見た目から26歳くらいかと思っていたが、まさかそんなに若かったなんて。僕は28歳だったので9個下か。そんな若い子と話すのは初めてに近かった。SMバーで働いているということで、面白い話をたくさん聞いた。サランラップでぐるぐる巻きにしてバカとか、アホとかマジックで書かれて、踏まれるのが好きな常連がいる。外国から、日本人に踏まれるために毎シーズン来日するアメリカ人の話など。
「私、縛られて吊るされるのが好きなんですよね。普段はS役なんだけど、本当は縛られて吊るされるのが好き。あの吊るされてる時ってなんとも言えない快感で、脳内麻薬がじわーって溢れ出てくるの。動けないし、重力をモロに感じるし、あれは一度味わってほしい。」
「そうなんだ。ナツコちゃんはSもMも両方いけるんだね。」
「Sはサービスのエス、 Mは満足のMなの。SMというものは信頼関係の上で成り立っていて、一歩間違えたら人を殺めてしまうかもしれないし、いじめになってしまう。人間をSとMふたつの人種に分けること自体がおこがましいことだと思っていて、人間生まれたときは何もできないでしょう。そこで、お母さんに母乳で育ててもらうでしょ。赤ちゃんプレイはSMの一種でしょ。そのあと子どもが大きくなるでしょ。そうなるとこちょこちょとかして遊ぶようになるでしょ。くすぐりもSMの一種なの。そうやってSMプレイを一つ一つ紐解いていくと、人間の成長の過程に欠かせないものが詰まっているの。歴史からの観点でみても、奴隷、しつけ、拷問の歴史がある。人間の歴史はすべてSMでできていると思うの。」
「山中さんはSとMどっち?」
「うーん、たぶんMよりかな。」
「試してみる?」
僕はナツコの家に向かった。心臓がドキドキしてはち切れそうだった。これから何が行われるんだろう。期待と不安が入り混じり、変な感情だった。9個も年下の女の子に手のひらで踊らされてる。踊らされるならとことん踊ってやろうじゃないか。
家につき、部屋に入れてもらった。案外普通の家だった。玄関を開けるとすぐ小さいキッチンがあり、奥に7畳くらいの部屋があり、服が散乱し、本棚には「危ない一号」「SMスナイパー」「鬼畜のススメ」などの本が並んでいる。
「90年代サブカルが好きなの?」
「うん。鬼畜系とかね。メルカリとかで集めた。」
ベッドに腰掛け、床に落ちてたSM用語集を手にとって読んでいたら、突然キスをされた。服を脱がされ、ナツコも服を脱いだ。
「いいの?」「うん。」
僕たちは前戯もなしに、混じり合った。ひさびさのセックスはなんとも言えない気持ちよさで、僕が勝手にそう思ってるだけかもしれないけれども、肌が合うとはこういうことなのかなと感じた。
「首絞めて」
僕は首を締めた。首を締める旅に膣がしまっていく…ついに果てた。
「ちょっといいものあるんだけど。」
ナツコが戸棚をゴソゴソやりはじめた。
「はい。これつけよ。」手首にフワフワの毛がついた黒い手錠だった。
「さっき、Mよりっていってたよね。」
「言ったけれども…」僕の話をきちんと聞かずに、ベッドの柵に僕の両手を縛り付ける。ナツコはゆっくりと僕の脇の下を爪で撫で始めた。
「くっ!ちょっと、そこは無理、やめて。」
「ふふっ、ろうそくって使ったことある?」
「ないけど…」
「どっかにあったはず。」
ナツコは戸棚をごそごそやり始めた。「あった」
「山中さんは初心者だから、まずはぬるいのからね。これは45度くらい」
ナツコは青いろうそくに火をつけ始めた。ゆっくりゆっくり、ろうそくが胸に垂れてくる。一滴一滴、僕の胸に蝋が垂れてくる。
「あっつい、いや熱くない?」
「これは大丈夫そうね。じゃあ次は、こっち、これは60度」ゆっくりと垂れてくる赤い蠟燭。
「こっちはちょっと熱い!熱い!」
「どう?嫌?」
「嫌でもないけど、嫌、やっぱいや!!青い方は気持ちよかったけど、こっちは熱い!」
「Mよりでも熱いのは嫌なんだね。」乳首の上に垂れた蝋が固まり、ナツコはそれを爪で剥がした。
「見て、山中さんの乳首の型が取れた。わかる?」僕の乳首の跡がくっきりと取れている。その後、飽きるまで僕のからだを長い爪でくすぐってきた。なんだかんだこれが一番しんどい。数分やって飽きたナツコは僕の手錠を外した。
「ちょっと四つん這いになってよ。」
「なんで?」
「いいから。」僕が四つん這いになるのを躊躇してると、
「はやく!いいからアナル開発させて」にやにやしたナツコがこっちを見てくる。
「誰かの開発したことあるの?」
「いや、ない。」
「じゃあなんでそんなの持ってるの?」テーブルの上にはアナルパールとアナルプラグが無造作に放置されていた。
「自分のを開発してたの。まずはめんぼうからね。」
無理やりされているのか、自ら四つん這いになってるのか、自分でもどちらかわからなかった。
「おっ、めんぼうはクリアだね。じゃあ次はこれ。」ナツコはテーブルの上に置いて会ったアナルパールを取って来た。
「ちょっと待て待て!早いよ!めんぼうとアナルパールじゃ雲泥の差だよ!入らないよ!」
「頑張ってみようよ!」
「何を頑張ってみるの!」
「だから、か・い・は・つ。」
ナツコは完全に女王様モードに入っていた。正直、興味がないわけではないけど、恐いし、初日でアナルパールは厳しい。
「ナツコはどうやって開発したの?」
「そこにアナルプラグがあるでしょ?それをはめて学校とか行ってた。」
「女子で開発する理由とかあるの?」
「いや、ないけどなんか楽しそうだから。」
「最終的な目標はこれね!」壁にかかってる手提げ袋の中からディルドバイブを出してきた。
「これ、尻にいれるの?無理だって!」
「頑張ってみようよ!」
「頑張るっていったって…」
なんだかんだ、無理やりアナルパールを入れられ、満足げなナツコと、憔悴している僕がいた。
その日から毎晩、僕とナツコの不思議な関係が始まった。まず、普通のセックスをしてから、僕の調教が始まる。少しづつ僕のアナルが拡張されていく。何度か試しているうちに、ビクン!という強制的な射精感を感じられるようになった。ビクンビクン!
「頑張ったね。」ナツコに褒められて正直嬉しかった。
「大好きだよ。」「俺も」「でも山中さん彼女いるんでしょ?」「…小林さんから聞いたの?」「そう。でも別れて、ナツコとちゃんと付き合いたいと思ってる。」「本当に?嬉しい。」「時間かかるかもだけどがんばるから待っててね。」
2週間ほど関係が続いて、突然ナツコと連絡がとれなくなった。これは飽きられたかもしれないと思ったが、心がナツコを求めてしまっていて、限界だった。毎晩、出会ったバーに行き、ナツコを探したが、どこにもいなかった。家に行くと言う手を使いそうになったが、それはストーカーと変わらないと思い、我慢した。
一週間くらい経ってから突然、ナツコから連絡がきた。うちに来てほしいと。ウキウキしながら向かうと、ナツコの様子がいつもと違っていた。
「私、あなたはもっと落ち着いている人かと思った。一週間、こんなにしつこく連絡されても困る。こっちにはこっちの都合がある。私はガツガツした男は好きじゃないの!奴隷なら奴隷らしくしてなさい。じゃあ帰って。」
この日、セックスはなかった。
「俺は…奴隷だったのか。」俺はいろいろと勘違いしていたようだ。俺たちは付き合っていたわけではなく、、女王様とM男という主従関係だったのだ。
僕はアル中の彼女と別れる必要もないのか。ナツコとの関係を切るわけでもなく、日々生きていくのだ。僕はナツコに連絡しても返事はない。向こうが会いたい時にだけ連絡してくる。こちらに決定権はない。
これは精神的なSMなんだ。向こうは自分と合うことをご褒美の一つとして捉えている。だから様子を見よう。あくまで主導権は自分にあると、そういうことなんだろう?
しばらくしてナツコから連絡が来た。
「今日、会わない?」
「いいよ。どこで会う?」
「いつものバーかな」
「オッケー」
「ねぇ、最近、よく遊んでる人がいるんだけどさ、会いたい会いたいってしつこいんだよね。」
「そうなんだ。めんどくさいね。」
「あなたも、昔、そんな時期あったよね。」
こうして、奴隷は量産されていく。
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